ゴルフ場、その自然の景観                             富樫 道廣(会員)
今年の我孫子ゴルフ倶楽部での市民観桜会は、桜はチラホラだったが、それよりも天気が・・・、午前中は薄日がさしたものの午後には雨、それどころか雪まで交じってしまって1時間も早く店じまい。そんな悪天候だったのに550人もの入場者があった。去年はというと天気は最高の晴天。しかし肝心の桜はほとんど開かずわずか1分咲き。しかし入場者の数は2000人を超した。

観桜会と銘打っているのに桜は開かず、我が国の伝統的な花見の概念からすれば、群がる桜、群がる大衆、飲む歌うの大騒ぎ・・とは全くかみ合うことのない入場者数のデータである。とても垂直思考の分析では説明は不可能である。
これだけの人数を吸引する魅力は一体何なのか。違った側面から考えてみたい。

ゴルフ場はかつて自然破壊の元凶とされた経緯がある。事実、この我孫子ゴルフ倶楽部の市民開放にあたっても部内でかなりの反対があったものである。
我孫子の景観に少なからず興味を持ち、それを愛する人たちにとって自然破壊の張本人の中に市民を迎え入れることに抵抗があったのは当然であろう。ましてや手賀沼の水質汚染がワーストワンの記録を更新中の頃である。

ゴルフ場の建設反対の理由を調べてみると3項目ぐらいに集約出来ることが分かった。
先ず第一は森林破壊である。森林を伐採、山を崩し土壌を改良する。保水力が落ちたり、地下水の体系を破壊、生態系も壊れてしまうという危惧である。

第二は農薬問題。ゴルフの発祥地スコットランドとは違って日本は温暖、多湿。芝を育成するには多量の肥料と農薬に頼らなければならない。その結果、水系にいる多くの生物が死滅するという心配である。

第三は資金にまつわること。広大な面積が必要であることから、(18ホールで100ヘクタール=300,000坪)、多額の資金が必要である。それに土地改良をするための許認可を取らなければならない。そこには常に汚職と疑獄の落とし穴がついてまわったものである。

しかしバブルの崩壊後、ゴルフの熱も冷めてしまった。農薬問題も品質自体の改良も進んで、昔のDDTやBHCのような難分解性のものは許可されなくなって、散布後分解して無毒化するものばかりになっている。遅いものでも30日、早いものなら数時間で効能は消えてしまうのである。

そんなことからゴルフ場は自然破壊から一転して自然保護にそのイメージを変えつつある。
ゴルフ場のフェアウエイを歩いてみて気分が悪くなる人はおそらくいないだろう。都市部に住む人々にとってフェアウエイの散策は恐らく森林浴に等しいという人もいる。
我孫子ゴルフ場は別稿でも述べたことだが、設計者の赤星六郎が手賀沼と利根川に囲まれた台地を利用して、その自然を壊すことなく、山も、谷も、沢もそのままに生かしてつくったものである。この間のスタッフの昼食の場所だった6番など、沢、山の典型だが、パー5、507ヤードの名物ホールは、300ヤード付近で深い谷に落ちる。ラフの下に盆地のようなフェアウエイが広がり、それから又山を登ってその上にご神木が鎮座する。それに隠れてグリーンは見えない。大きな高い球を打たなければご神木につかまってしまう。素人には手に負えるものではない。自然を生かすということはそういうことなのだろう。今では見えなくなってしまったが、北に広がる利根川の流れ。16番、13番のグリーンから望む手賀沼は一幅の絵である。

我孫子のゴルフ場は特に樹木の手入れが行き届いている。公開される16番のフェアウエイから振り返って見るテイグランドの後ろに立ち並ぶ松の木々。反対にグリーンの先に見える紅葉の古木、右に立ち並ぶ杉など。14番のグリーン奥の松も盆栽のような手入れである。

こんな美しい風景を見ながらの森林浴は、森林セラピーに等しいだろう。研究者によれば、都市の真ん中に住んで居るものが森林を散策すると、コルチゾール(ストレスを生ずると上昇するホルモンの1種)が10%以上減少するし、血圧は3%以上下がり、心拍数は6%下がるという。更にリラックス時の副交感神経活動は50%以上上昇するそうだ。芝生を見たり、触ったりすることで脳の血液は活性化し人間の生活や心理に与える影響は大きいという。

森林浴といっても森林ならどこでもいいというのではなく、適度に伐採されて見通しの出来る林が良いし、歩くのもセカセカでもなく、かと言って登山のように汗をかきながら一所懸命歩くのでもない。同じ風景の中を歩くのはよくないそうだ。
正に我孫子のゴルフ場の中をゆっくり歩くことが森林セラピーと言えそうだ。

このように考えてくると、桜は咲かなくとも、天候は悪くても手入れの行きとどいた我孫子ゴルフのコースの中を散策することは最高の森林セラピーになると思った。これこそが人間にとって最も重要な呼吸器、循環器系の病気の予防、ストレスの解消に役立つものと思う。

人間にとって景観がいかに重要なものであるのか、人間の活動にどのような影響を与えているのか、未だ科学的に証明されたわけでもないが、我孫子の自然を尊重して設計された我孫子ゴルフのコースを市民に提供することが出来る喜びと、それを共有できる誇りを感ぜざるを得ないものである。

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