震災の現地に立って                                             原 良子(会員)
震災から5ヶ月がたった。あの3月11日以来、メディアを通して災害地域の夥しい画像を見てきたし、被災した人々の声にも耳を傾けてきた。それでも、現地に立ってみなければ、震災の本当の実体は知ることが出来ないと感じていたのは私だけであろうか。

日本私立大学団体連合会・日本私立短期大学協会主催のシンポジウム「東日本大震災を超えて大学のなすべきこと、できること―教育の復興なくして地域の復興と国の再生なし―」(於:東北学院大学)が8月2日に開催される事を知った。期末試験の合間を縫って、急遽参加することにした。大学関係者と一般の方々が360名ほど参加した。

ここで内容を詳細に述べることは出来ないが、宮城県の各大学の報告や今後の問題について、講演やパネルディスカッションが行なわれた。甚大な被害を被った石巻専修大学では校舎が学生・一般住民の避難所となり、すぐに災害ボランンティアセンターを立ち上げている。学長は今後の学生に必要なのは「初めて出会うことに対応できる能力」である、と繰り返し述べた。商工会議所の渡辺氏は「現状と課題」として、瓦礫の処理、中小企業の事業再生、蠅の発生(異臭・伝染病の発生)、PTSD(震災関連死、70名)、風評被害の5点を挙げた。渡辺氏の以前の職場(石巻市)の同僚が全員被災され、1名死亡で発見、他の11名は行方不明と話されたとき、会場は一瞬静まりかえったように思えた。

この機会を捉えて2日間ではあったがボランティア活動に参加した。1日目は「仙台市津波災害ボランティアセンター」に向かった。要請件数から当日は110名のボランティアを必要としていた。9時からのマッチングで、「引越しの手伝い、8名」に手を挙げた。男性4名(大学生2名)、女性4名だった。車で移動中にあちらこちらでタイルが剥げ落ちたマンションが見えた。目的のマンションは土台が傾き、住民に退去命令が出ていた。現場は4階で足が不自由な中年男性の一人暮らしの部屋だったが、家具がぶつかった壁は陥没していた。持ち場を決めると、8名全員がほとんど無言で懸命に作業した。

翌日の早朝、前日に知り合った女性2名に便乗して亘理町へ行った。ここで256名の方々が亡くなっている。センターは仙台市とは異なりこじんまりしていた。私は「側溝の泥出し」に参加した。
広い畑の周りの用水路には泥が入り込んで全く水が流れなくなっていた。中心メンバーは「三菱ふそう」の企業ボランティア8名で年齢が20〜40代の男性である。地元の男子大学生、関東から来た中年男性、隣町の幼稚園の先生と私たち3名の女性、計14名であった。水の底に泥がたまっている所や、流れ込んだ土砂ですっかり埋まり固くなっている所を分担に従って掘って行く。畑の持ち主の母屋は流され土台部分だけが残っていた。

センターに戻り、5時過ぎの電車まであと1時間ほどある。私たち3人はタクシーで荒浜に行くことにした。老運転手さんは家が流されたが、仮設住宅には入れないという。会社に泊まっているが嫌がられてるんだ、と寂しそうに話す。窓から遠くに見えた平たい白い箱のような仮設住宅。破壊された多くの車。道路の両脇は家の土台だけが累々と海まで続いていた。すると突然、前方に巨大な山が三つ見えてくる。近づくと瓦礫の山である。巨大な山の裾には玩具のように小さく見える重機が作業していた。木材の山、金物の山、土砂の山と分別された、その巨大な山々を私たち3人はしばし呆然と見上げた。

この短い東北への旅で、震災とどのように関わるべきか、「私のなすべきこと、できること」の答えを発見できたように思う。石巻市など被災地の惨状は亘理町より凄まじいであろう。それでもあの瓦礫の山々はテレビで見た瓦礫とは違っていた。ボランティアに参加した人たちは再び日常に戻って、自動車の修理や幼稚園児の世話に、また黙々と誠実に仕事をすることだろう。

この濃密な体験の3日間を過ごして、シンポジウムの言葉が私に甦ってきた。「自分のできることしかできない」、「心ある学生の気持ちを大学がくみ上げて長い支援をどうするのか、それもシステマティックに」、「しっかり学問することで問題解決の能力が身に付く」。つまり自分の足元の仕事、自分のできることを誠実に行なうことが、震災の復興と日本の再生に繋がるのだと改めて再認識した。しかし同時に、「ボランティアセンター」のように、様々な分野で、心ある人たちの気持ちをくみ上げ、長い支援を組織立って行なうネットワーク作りも大切であると感じている。
【速報】川瀬巴水木版画展 開催日決定
日:11月25日(金)〜12月4日(日)
於:我孫子市民プラザ・ギャラリー  (詳細は後日)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
【速報】第18回日立総合経営研修所 庭園公開
秋の庭園公開は下記の日程で開催されます。(詳細は後日)
・日時 11月26日(土)10:00〜16:00(雨天の場合翌日)
・於  日立総合経営研修所
編 集 後 記
紀伊半島でも大きな水害が発生しました。改めてお見舞い申上げます。東日本大震災後のボランティア活動をされた2人の体験談、感想を掲載しました。景観とは直接関係なくても、その思いは景観にも通じるものと思います。目に見える支えの必要性を痛感しています。(飯田俊二)

■もどる