3・11と「負の景観」  (続き)                              高野瀬 恒吉(会員)
※43号からの続きです

  眼を擦りながら勝手口を出ると金木犀の甘酸っぱい香りが爽やかに秋を伝える。手にした新聞の折込に「あびこ広報No1294」があった。冒頭の「市民憲章」の真下に、太文字で"放射線量提言策を実施・・云々・・"と、憲章に馴染めない思いの記事を見る。

  我孫子も各地に地震の被害がありました。被災者の思いも有りますが、主観ながら「手賀沼の景観」に異常は覚えなかった。原発被害は、福島から遥かに遠いと思って安心していたが、我孫子も突発した放射線の見えざる脅威に曝されていたのだった。成程TVにみる航空機写真にも「千葉県北西部は汚染地域に色分け」で示されていた。

◆自然と共同の叡智
  数年前ホリエモンが「想定の範囲内」と言い、之に対応する「想定外」の言葉が流行語になっていた。今回の3・11大震災、津波、原発事故には官民ともにマスコミまで「想定外」の言葉を氾濫させていたが、或る日からその筋では禁句のように扱われるようになった。その所為でも有るまいが、情報は結果の後追いとなりやすく、ひいては日々の生活の不安が拭われない。未知の分野の開発を金科玉条とする専門家の気概は善しとするも「征服を豪語し」自然界の摂理が損傷されていても吾関せず、と「想定外」の煙幕へ逃げ込む専門家が居ては戴けない。

  言うまでも無く、自然の摂理を無視して生物は生きて行けない。人類の存続を守ってきた祖先は、不慮の犠牲を積み重ね、体験から得た「母なる大地の恩恵」を信じて、どんな自然現象に遭遇しても、真摯に現実を見つめて、「自然との共同」に徹底して智慧を絞ったから、今日の人類繁栄が続いているものと認識します。

  翻って、現代の文明社会は事毎に毀誉褒貶を謳い、政治経済は我利中心の盛衰にうつつを言っているが、その様なことがあろうと無かろうと、お構いなく自然は時を刻み、悠然と通り過ぎて行く。今年も地震や台風に見舞われた、唸るほどの猛暑もあった、間もなく冬将軍は被災地にも訪れる!・・・風土に生き残りを賭けながら、希望する安住の地を見つけられない被災の人々の想いに応える生活の本拠はいずこに・・・と想うとき、復興計画推進の根底に、「景観が育てる風土と人間性」に関る哲学的思考に思いを巡らすことがあって然るべしと思います。

 さて、現実は災害発生から8ヶ月、地元には漸く「天災と人災」の対応も考えながら生活拠点の選択と構想に動きが見えてきました。流石に「失意からの立ち上がる」風土に生きる人達の根性を感じます。
  先に会報「景観あびこ」に掲載して頂いた文章が、インターネットの「負の景観」サイトに、他の「負の景観」論と数件肩を並べられました、"悪い景観・汚い景観、或は「醜い景観100選」"などですが、単純に正邪のイメージを取り上げたものばかりで、彼等の主張する「負」とは、即ち「悪」に通じる表現であって、この種の負なれば、法規・規制を求める事もさることながら、大衆の善意の努力だけでも、改善・除去・排除の可能性はあるものかと考えます。

  しかし、私の「負の景観」は先述の方々とは発想の次元が違います。先述しましたが、天災で亡くなった人達の叫び、生物・物体の総ての「いのち」(物質にも存在の権利あり、之を「命」とする)を含め、あった筈の景観が瞬時に消失した跡に現れた「云いようの無い光景」です。其処には"只管に甦りたいと訴える、情念が潜在"している、と推察するもので、容(かたち)が変わっても、なにかが必ず息を吹き返すだろう、との想いから、敢て「景観の範疇」に入れたのです。

◆体験から発想の智慧
 いまや、震災復活、原発災害に係る書籍・雑誌・DVDが巷に溢れていますが、私にはとても読む力がありません。端的にボランティアの方や視察で被災地を訪れた方の実感の話から、被災の人達が亡き人への想いと、当面の生活不安や、安住の場所選びに神経をすり減らしている状況などさまざまで「逆境に立つ心理状態」の深刻さを覚えます。

  第2次世界大戦後のバブル期を経て満喫した文明社会の金権主義も此処に来て、政治の疲弊、価値観の変化、新世代の死生観などから行き詰まりの空気が漂ったと思える処へ起こった「大震災」が日本国内のみならず、世界を揺さぶり、既往概念を叩きつけました。脱皮のための真理はなにか? それは「自然と人の関わりの歴史」にあると思います。
私達、人類の歴史は「自然と共同」に徹し、景観を愛でる場所を撰び、其処に醸成された「風土」に生存を托して来たのだ、と認識するなれば、復興の新都市計画や防災計画などに気鋭の専門学者の指導も当然の事ながら、いまや机上の政治手法からの脱出も必要でしょう。発生した「負の景観」の地域には、住み着く人に相応しい「風土」の復活、地域の景観の保存を心掛け、勇敢に「発想の転換」をした施策実現を望みたい。(おわり) 

(註)「負の景観論」については、当会員及び知友の方から感想と批判を頂き有難う御座いました。

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