「秋の一泊景観散歩」
            〜1日目〜足利学校とココファーム                                     安河内 志乃(会員) 
11月26日と27日は、初の一泊景観散歩! 我孫子駅北口を時間通りに出発し、素晴らしい紅葉の景色の中順調に日本最古の学校「足利学校」に到着。

学校門をくぐると、端正で学問的な世界が広がります。図書館は大正4年のハイカラな建物。書院や方丈(大座敷)、庫裡(くり)(台所)などは1990年に江戸中期の姿を蘇らせた重厚な茅葺屋根の建物で、南と北に配置された日本庭園も小振りながら見事です。16世紀の足利学校には儒学、易学などを学ぶために3千人の生徒が集まったとか。特筆すべきは庫裡(くり)の入り口の「宥座(ゆうざ)の器」。宥座(ゆうざ)とは「常に身近に置いて戒めとする」という意味だそうです。
画
(画:安河内志乃さん)

さて、吉澤会長が宙に吊るされた容れ物に柄杓で慎重に水を入れて行きました。空の時は少し傾いていた器が、水が入るにつれバランスがとれてまっすぐに。しかしそれ以上水を注ぐとくるりと逆さになり、水はすべてこぼれます。実はそのように巧みに設計されている器なのです。孔子が桓公の廟に参拝した折にこの器を見て「虚なれば即ち傾き、中なれば即ち正しく、満なれば即ち覆る。いっぱいに満ちて覆らないものは無い。足るを知るべし」という「中庸(ちゅうよう)」を教える言葉を残したと言われています。
次は足利学校から程近い「鑁阿(ばんな)寺」、足利氏宅跡に建てられた一門の氏寺です。鎌倉時代創建の本堂前には、樹齢550年と言われる大銀杏が黄色く色づいています。実はバスの中で鈴木さんから耳寄りな情報が!この寺の境内には、木食(もくじき)上人が奉納した灯篭があり柳(やなぎ)宗悦(むねよし)によって世に紹介された、とのこと。それは是非見てみたいと、みんなで探したものの時間切れとなり残念でしたが、敷地周囲には水掘りと土塁が巡らされ、武士の館であったことを偲ばせる印象的な寺でした。

一日目最後の目的地は、「ココファーム・ワイナリー」。小雨が降り始めましたが、うまく屋根の下へ逃げ込み、地元野菜をふんだんに使った美味しいランチの後、スタッフの方にお話を伺いました。

昭和33年、中学校特殊学級教員の川田昇氏と子どもたちが、2年がかりで勾配38度の急斜面3ヘクタールを開墾。それまで甘やかされていた子どもたちを山が鍛えてくれた。今は18歳〜90歳の約100名がこの「こころみ学園」で集団生活しつつワイン作り。田崎真也氏がここのワインを「発見」、2000年の沖縄サミット晩餐会、2008年洞爺湖サミット夕食会にて使用された等々。

皆感動のお話の後、北側の山腹をくり抜いたワインセラーへ。入ったとたんに熟成した葡萄の甘酸っぱい香りが鼻をつきます。重ねられた樽には高級ワインがそれぞれ225リットル入り、減れば注ぎ足すそうです。そしてお待ちかねのワインの試飲。欧州ワインに引けを取らない素晴らしい味です。ショップにてどっさりのお買い物をして、宿泊先の武蔵嵐山(らんざん)の国立女性教育会館へ向かいました。

会館では、女性建築家のパイオニア達の展示を先ず拝見しました。豪華な夕食後、幹事さんが確保して下さっていた会議室にて景観の会以外の参加者とも親交を深められました。幹事の皆様に感謝しつつ、充実した一日目の夜が嬉しく楽しく更けていきました。     (画:安河内志乃さん)
         〜2日目〜 富岡製糸場と甘楽町散策                   前田 毅(会員) 
2日目(11月27日)の朝は素晴らしい快晴で始まった。前夜遅くまで話し込んだ人たちもこの天気に誘われてご来迎を拝んだり早朝散歩を楽しんだりしたようだ。少し肌寒い。

8時半出発。バスは爽やかな空気の中を富岡製糸場へと向かう。明治の初め、近代国家建設への歩みを始めた維新政府は国づくりの柱としてこの工場を建設した。爾来140年余り、外国人技師を招聘し莫大な国費をかけた意気込みが、今も残る建物や機械、施設のあちこちから立ち昇る息吹きとして胸に迫ってくる。維新のリーダーたちの感慨や如何に。

国のあり方についてのそれぞれの想いを胸に、バスは甘楽町へ。名勝「楽山園」の見事な庭園を堪能する。快晴の日差しが心地よい。雄川のせせらぎを愛でながら昼食。
その後は各自思い思いに"歩きたくなるまち「小幡」"を散策。先人の知恵が「雄川堰」に生かされ、古民家、蔵や土蔵などと現代人の生活とがマッチしている。自然景観と歴史空間という町並み資源を巧みに調和させた街づくりが見事だ。いい町だとしみじみ思う。春先の桜の季節にまた来てみたい。一泊旅行は良いな。余裕があり参加者の胸にさまざまな悦びを残してくれる。幹事さんたちの周到な準備・配慮の賜物だろう。

心が豊かになる二日間であった。感謝、感謝。

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