文学作品の中の<景観>
絵本「おぼえていろよ おおきな木」 
さく・え  さの ようこ  秋田 桂子(会員)
絵本が文学作品?と驚かれるかもしれませんが、「絵本は乳幼児が出合う初めての文学作品」なのです。絵本「おぼえていろよ おおきな木」は、こんなお話です。

《一人暮らしのおじさんの家の庭には大きな木があります。その木をおじさんは日ごろから苦々しく思っています。 朝、大きな木に小鳥がたくさん集まってきてさえずるのでうるさくて寝ていられないのです。おじさんは起き出して木を蹴飛ばしながら「おぼえていろよ」と言います。木の下でお茶を飲んでいれば茶碗の中に小鳥の糞が落ちてきますし、木陰にハンモックを吊って昼寝をすれば毛虫が何匹もぶら下がります。秋には落ち葉で焼き芋ができますが、落ち葉は掃いても掃いても落ちてきます。そのたびに「おぼえていろよ」と言います。そして冬には雪の塊がドサッと落ちてきます。遂におじさんは「おぼえていろ、おぼえていろ」と斧で大きな木を切り倒してしまいます‥。

すると、朝になったのも春になったのも、大きな木に小鳥が来たり花が咲いたりしないので分からなくなりました。ハンモックを吊るそうにも焼き芋を焼こうにも大きな木がないので叶いません。おじさんは、木がなくなったことで初めて失ったものに気づき、切り株の上に倒れ、切り株を撫でていつまでも泣き続けます。泣き止んだおじさんがよく見ると、切り株から小さな青い芽が出ていました!それからというもの、おじさんは朝早く起きると新しい芽に水遣りをし、木の周りを回るのでした。新しい木はぐんぐん伸びていきました。》
一人のおじさんを通して、人と自然のかかわりの大切さや人が如何に自然から恩恵を受けているかについて幼児にも分かりやすく語っています。そして大切なものを失ってみて初めて分かる人間の愚かしさにも気づかせてくれています。

物語は、新しい芽が出るという"希望"があり、おじさんの前向きな姿勢も嬉しいものとしています。

「絵本は子どもの読む物」と思わず、時はまさに読書の秋、たまには手に取ってみませんか?当会の活動内容<景観を知る、学ぶ>を絵本で実感できます。


※「おぼえていろよ おおきな木」作・絵 さのようこ
講談社発行
さのようこ(佐野洋子) 1938年〜2010年
主な作品「100万回生きたねこ」(絵本のベストセラー) 
「おじさんのかさ」(教科書に掲載) 「シズコさん」(母との愛憎を書いたエッセー)など多数 2003年紫綬褒章受章

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