文学作品の中の<景観>  -4-
           「花のようする」 作 藤谷 治 
                                     秋田 桂子(会員)
<これこそストリートガーデン!>
町を歩きながら、花の咲いている家を見ると思わず見とれてしまうことがよくあります。「きれい!」と思ったり「こんなふうな配色がステキ!」と感心したりします。

『花のようする』という、ちょっと意味の分からない題名の本を図書館で見つけました。作者が好きだったので、読み始めたら「これこそストリートガーデンの真髄だ!」という本でした。この本は、ストーリーの面白さだけでなく、<景観>にぴったりの場面がありました。

野滝という女性が恋人と住む家をあちこちと探し回っている。奇妙な体験をいろいろ繰り返しながら「本当にふさわしい家が見つかるのだろうか?」とヒロインと一緒に悩みながら読み進めていくと、次のようなくだりがあった。

<野滝は以前、澁谷さんや、ほかの家を見て、それがどうして幸福そうに見えるのかと、不思議に思っていた。それは家や家庭とかというものに幻想的な憧れを感じる、自分の甘さなのではないかと思った。だが家々が幸福そうに見えるのには、あっけないほど単純な理由があった。公園から(中略)野滝はさっき通った家を見ていた。どの家も幸福そうに見えた。それらの家が実際には幸福であるかどうか、そんなことは無縁に「家屋」そのものが幸福そうなのである。それはそのひとつひとつの家に、花(・)が(・)咲いて(・・・)いる(・・)からだった。
ただそれだけのことだったのだ。庭に藤棚を作っている家もあった。桜の木が塀の向こうから出ている家もあった。庭の小さな家でも、薔薇やシクラメンや山茶花、セイダカアワダチソウがすべての家で育てられていた。「花だ、花だ……」野滝はしらないうちに走り出していた。(中略)外でどれほどつらくても、花の擁するこの家では、値打も資格もなく、ただ生きていられる。この草花と同じく(後略)>

‥ここにきて「花のようする」というタイトルの意味が初めて「花の擁する」という意味だったのかと分かりました。

読み終わって「そうなのだ、私たちがストリートガーデンに魅かれるのは、これなのね!」と納得したのです。

さあ、ストリートガーデンを見に行きましょう!ストリートガーデンの一角を担いましょう!

藤谷治(ふじたにおさむ) 1963年〜
「アンダンテ・モッツアレラ・チーズ」でデビュー。
主な作品「世界で一番美しい」「いなかのせんきょ」他多数。
   
               作:藤谷 治  ポプラ社
※お詫びと訂正:第68号4頁「まちの美化に取り組む人々」文中、中央学院高校の日向先生は、田向先生の誤りでした。
このサイト上は、訂正済です。
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