●冬枯れ、という言葉があります。『大辞林』によれば、「冬に草木の枯れること。また、一面に枯れ色になった荒涼たる景色」という意味です。「荒涼たる」と言われてしまうと、非常に寂しい感じがするのですが、私には一つ冬枯れならではの好きな情景があります。
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庭に長く伸びた樹の影(筆者提供) |
●それは、日が傾いてから、杉村楚人冠邸園東側の地面にスッと樹木の影が伸びている様子です。春から秋にかけては、ここに色々な草が生えていますから、影がきれいに映らないのです。その草が枯れてしまえば、パッと見には「何もない」と思ってしまいがちな場所ですが、だからこそ影を映す最高のスクリーンになります。冬枯れの時期ならではの、日が傾いてくる時間の情景です。
●こうした冬枯れの景色とは対照的に、照葉樹である椿や山茶花の多い杉村楚人冠邸園のこと、母屋の周りは冬の間も濃い緑が景観の基調になっています。そして春より咲いている種類は少ないとはいえ、花も楽しめます。 |
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●11月から12月にかけてのピンク色の山茶花は花の時期が長く楽しめます。楚人冠が書斎で机に向った時に正面になる位置に植えてあり、楚人冠のお気に入りだったのかもしれません。12月下旬からは羽根を開くように咲いていく姿が美しい、赤色の「蜑小船」(あまおぶね)、白色の「羽衣」が咲き始め、春までその姿を見せてくれます。
●杉村楚人冠記念館のホームページに掲載する写真を担当している身としては、白い椿はすぐ変色してしまうので難しいのですが、陽光が透けてまるで光っているように見える花は、美しい、の一言です。そういえば楚人冠は、厚ぼったい黒ずんだ葉の間に華やかな大きな花が咲き乱れるところに神秘的な趣を感じる、と言っていたのでした。日の光に照らされた羽衣は、まさにその典型のようにも思えます。もとは畑だった土地に色々な樹木を植えてくれた楚人冠に感謝しつつ、この稿を終えたいと思います。
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椿(筆者提供) |
※シリーズ庭園の四季は、今号を持って終了です。
執筆いただいた深山まさ江様、武田祐子様、佐久間俊行様、高木大祐様、ありがとうございました。 |