我孫子の景観を育てる会 景観あびこ_title 第79号 2017.5.20発行
編集・発行人 吉澤淳一
我孫子市つくし野6-3-7
我孫子景観基礎研究 その2
    2020年に向けた手賀沼の"景観ビジョン"−4
                        建築家・工学博士 野口 修(会員)
2-4. 街路
  「停車場前の大通りに櫻が三十本ばかりあるが、これに天狗の巣がついて年々ふえてゆく。花はだんだん咲かなくなるし、すておけば枯れるかも知れない。東京から人が来た時、如何にもこの邊には物の分らぬ人ばかり居るやうに見えて、見つともなくて仕方がない。」(『湖畔吟』"天狗の巣"昭和2年)冒頭の一文からは、当時既に我孫子の住人だった杉村楚人冠が、街路樹についた病害を心配する気持ちに加え、東京からの来訪者に少しでも我孫子を良く見せたいという親心も感じられる。東西に長い手賀沼の北岸に位置する我孫子エリアは、沼に南面するため、古墳や城跡、大正期の別荘跡などが数多く残る。また、こうした史跡は干拓前の水際にあたる"ハケの道"沿いに集中し、散策路として人気を集めている。手賀沼散策の玄関口である我孫子駅と手賀沼公園を結ぶのが、"駅前通り"と"公園坂通り"、八坂神社前で"オオバン通り"が交差する。"オオバン通り"は建設中の"手賀沼公園・久寺家線"に接続し、開通後は駅〜手賀沼公園間のバス通りとなる。楚人冠が殊更気にした駅前から手賀沼公園に至る景観は、市外から訪れた人が初めて目にするいわば"街の顔"のような存在なのではないか? そして、それ故に楚人冠の親心を斟酌して言えば、文化的な趣きのある街路であって欲しいと思う。 この視点に対して現況は?と言えば、整備されているのは"駅前通り"のみである。"公園坂通り"に関しては、地形や道路幅員の点で急な変化が期待できない。一方、"オオバン通り"は"手賀沼公園・久寺家線"が開通して、区画整理が終わり市から県への返還が済まなければ、街路樹さえ植えられないとのことだ。幅広な歩道の割に切り下げばかりで歩き難く、夏の日差しを避ける木陰もテントもない現況は、駅前市街地の活性化とも連動しているだけに残念だ。筆者としては"オオバン通り"と"手賀沼公園・久寺家線"が手賀沼公園への観光道路として、緑豊かなバス通りに、"公園坂通り"が風情ある歩行者向きの街路として再生され、両通りが交わる手賀沼公園前の三角地が情報拠点として整備されれば・・と考えるのだが・・・道のりは遠い。
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