我孫子景観基礎研究 その3 最新の都市公園事例が変える緑地景観の可能性 建築家・工学博士 野口 修(会員) |
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3-3.事例3:『上野恩賜公園』の地域力 | |||
事例2で挙げた『隅田公園』のオープンカフェ2店舗の内、ひとつはコーヒーチェーン店のタリーズコーヒーだった。昨今の飲食系企業は、地域コミュニティーや環境に対する関心が非常に高い。ここでも木を多用した店舗は、沿道の並木と調和し、周辺景観への気配りを感じさせる設計だった。 同じくチェーン店のスターバックスコーヒーの店舗が、東京都台東区の『上野恩賜公園』に出店していることを思い出し、訪ねてみることにした。 平日の昼間なのに店内の71席、テラスの69席ともほぼ埋まっている。観光客らしい外国人も多い。約10分並んで席を確保した。木造平屋、切妻屋根の店舗は周囲の木々より高さを抑えている。間仕切りが少なく、開放的な雰囲気の店内を観察していると、東京芸術大学(芸大)の学生が描いた数点の絵が展示されていることに気付いた。 この公園は芸大の庭先だった!と思い、調べると、園内の施設と芸大が連携する活動を幾つか見つけた。 例えば「とびらプロジェクト」は、公園内に建つ東京都美術館と東京芸術大学が連携して行うアート・コミュニティ形成事業と説明される。 |
筆者の解釈で言えば、東京都美術館を活用して市民が芸術と親しむ機会、あるいは芸術を介した新しい対話の場をつくる活動で、運営には芸大関係者の他、毎年更新されるボランティアがあたっている。 ところで『上野恩賜公園』は、1873年の太政官布告で整備された日本初の公園のひとつだ。 なかでも美術館や博物館、上野動物園等の芸術・教育・文化施設に加えて、モダンな料理を出すレストランも整った本公園は、大人も時間を過ごせる特別な場所だった。しかし、時代と共に市民の遊び場が多様化し、特別感が失われる中、地域の“若い力”と連携した持続を模索している。 景観を長く保全するためには、若い引継ぎ手を集め、育成する努力も必要なのではないか? ここまで書いて、手賀沼の保全活動に寄与した杉村楚人冠も俳句結社「湖畔吟社」を通じて地元の青年層と交流したり、東京朝日新聞千葉版への投書『手賀沼の為に』の中で若い世代向けのレジャー施設を構想していたことを思い出した。 |
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