我孫子の景観を育てる会 景観あびこ_title 第84号 2018.3.17発行
編集・発行人 吉澤淳一
我孫子市つくし野6-3-7
我孫子景観基礎研究 その3
    最新の都市公園事例が変える緑地景観の可能性
                        建築家・工学博士 野口 修(会員)
3-4. 事例4:『漱石公園』の地域資源活用術
  新宿区立『漱石山房記念館』がオープンしたと聞き訪ねてみることにした。かねてより夏目漱石が晩年の9年間を過ごした旧居、「漱石山房」の敷地を公園化した区立『漱石公園』の存在は知っていた。

  公園は平成20年に一度整備され、和洋折衷の建物だった「漱石山房」の洋風縁側が再現展示されたりしたが、道路側に区営住宅が在ったことから、細い地型の"裏庭"という印象だった。今回、区営住宅の移設にともない、その敷地を『漱石山房記念館』に整備することで、「漱石山房」跡を含む公園全体が夏目漱石の記憶を伝える場所となった。

 東西線の早稲田駅、神楽坂寄りの出口を出てすぐ、早稲田通りから分岐する漱石山房通りを辿ると、昭和の雰囲気を残す住宅街の中に『漱石山房記念館』が現れる。館の正面右手には、漱石の胸像と『漱石公園』の入口が並ぶ。

 地階を設け、地上2階に高さを抑えた記念館の1・2階では、展示およびブックカフェ、地階では、図書室と講座室が公開されている。展示の目玉は、館内に再現された旧「漱石山房」の書斎だ。展示室のガラス
壁を通して『漱石公園』の風景も目に入る。
  タイル調のインターロックで舗装された漱石山房通りを弁天町方向に進むと外苑東通りに突き当たる。この通り沿いでも最近『草間彌生美術館』が開館した(平成29年10月)。こちらは白い塔状の5階建の建築で外国人の見学者も多い。早稲田から神楽坂に至るこの区間は、住宅と小さな工場が雑居する"にぎわい"を生みにくい地域だったが、この地に根付いた人を資源とすることで、新しい街の姿を模索しはじめているように感じられた。

 一方で、手賀沼公園から市役所方向に抜ける我孫子の『ハケの道』を考えた。三樹荘や志賀直哉邸跡、旧村川別荘など、街の資源は十分ある。前例を資金面で豊かな東京の話題と切り捨ててしまえばそれまでだが、考え方次第で、我孫子に応用出来る点もある。例えば、途切れがちな化粧舗装をつなげてみたり、ハケの道全体を野外の展示空間と捉え、我孫子で創作された小説の一文を道標として整備してみたり・・・。ハコモノにこだわらなければ、ものの見方とデザインの力で多様な可能性が広がるのではないか?と考えた。
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