景観の本棚 −7−「浦辺鎮太郎作品集」 新建築社  (企画・発行:浦辺太郎 浦辺真郎 浦辺徹郎)
 冨樫 道廣(会員)
(前ページからのつづき)
  そんなことがあっても後年のインタビューで浦辺は「エンジニアではなく、大原總一郎の営繕技師」と誇りを持っていっている。又、浦辺の残した、「MY KURASHIKI」という1冊のノートがあるが、その中に「毎年一つ何か倉敷の為に残したい」という言葉と、2羽の鶏が向い合う紋章が描かれている。後の浦辺の追記によると、鶏は酉年生まれで同い年の總一郎と自身を指し、紋章は二人で、「二人三脚で倉敷を支える」気概を示すものという。(以上は日経新聞2019.11.20文化欄「倉敷の町づくり二人三脚」西村清是)。以上の二項から浦辺が倉敷に寄せる意気込みが理解できるだろう。

  更にもう一つ加えるならば、名望家としての孫三郎が町なみ保存に民芸の思想の要を感じて民藝運動家の外村吉之介を招聘して倉敷民芸館を江戸時代の米蔵を改修して開館している。その上、柳宗悦にも深く接して、日本民藝館の創設に賛同、10万円の寄付をしている。以上浦辺の背景を大分探ったので改めてその作品を拝見させてもらうことにする。
具体的には1957年(昭32)の倉敷考古館増築や、昔の砂糖問屋を転用して旅館くらしき(右上スケッチ)に改修する作業が出発点になるが、自前のものとして最初にされたのが、大原美術館分館である(1961)。浦辺はまちの保存地区を守る「城壁」にしようと、古い町家の高さを考慮したスケールと白、黒の色調を採用し、鉄筋コンクリート造りながら白壁に黒瓦を張り、腰壁に自然石を埋め込むなどユニークな造形を完成させた。そして次に出てくる学会賞など多数の受賞の対象になる倉敷国際ホテルと共に新旧調和する街のイメージづくりに着手していくことになる。
旅館くらしき改造
1957年(昭和32)木造2階元砂糖問屋転用
本書写真より筆者のスケッチ

 多くの作品を手掛けても、常に大原一族の戦略コンセプトに自問自答しながらの構想実現であり、またそれが、倉敷市民会館、旧市庁舎周辺、倉敷中央病院など、すべてランドマーク的なものが、約1キロ四方にまとめられてローテンブルグ的な町づくりとなり現実のものとなったと言っても過言ではあるまい。詳述するに限りはないが、膨大な作品群も、その背景を把握することで、以上のごとくまとめたい。

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我孫子の景観を育てる会『20周年記念講演会』 開催される!  8月28日(土)アビスタホール
            『手賀沼ヌマベ会議』 〜水辺の未来を育てる〜
《 実施報告 》 
『市民のチカラまつり2021』(我孫子市共催)企画部門講演会として、柏市からも後援をいただき、8月28日(土)午後14:00〜16:35 生涯学習センター アビスタホールにて開催されました。残暑厳しく、また新型コロナ感染症拡大の中、予防諸対策を講じて、事前申込み者44名含め70名の参加で無事終えることが出来ました。

当会の中塚会長より開催の挨拶に続き、我孫子市青木副市長よりお祝いのお言葉をいただき講演会が始まりました。

スタートは、当会の会員でもある野口修氏の基調講演「手賀沼地域における歴史文化資源の掘り起こしと活用」と題して、当会の活動及びそこから見えた地域の独自性を楽しみながら学び、育てる機会の喪失と景観の持続性について語っていただきました。続いて東京大学大学院 デザイン研究室助教の永野真義氏が「手賀沼フィッシングセンター再生とヌマベクラブ」と題して、「ヌマベ」が市民にとって水に親しむ空間となるように変え、自然を楽しむイベントを催す地域活性化の取り組みについて活動報告していただきました。

最後に(財)柏市みどりの基金の平方眞道氏と(株)connel代表の萩野正和氏から「キタカシ暮らしづくりプロジェクト」と題して、自然環境を生かした魅力ある暮らしづくりを、北柏の地域住民と連携して行なう取り組みについて語っていただきました。その後、講演者4名による意見交換が行われ、最後に、柏市住環境再生課長 田口史氏より締めのお言葉をいただき、無事終了しました。
コロナ対策上、入場人員制限があったり、質疑応答が出来なかったのは心残りですが、これからの活動の参考となる有意義な講演会でした。

当日の講演会の模様については、■当会のホームページで、資料画像と講演音声を組み合わせたスライド動画が掲載されましたので、ご覧いただけます。また、『市民のチカラまつり2021』(9/25・26)でも配信を予定していますので、ぜひご覧ください。

振り返ってみますと、景観あびこ102号で、当時東京大学大学院修士2年の松本大知さんの投稿をきっかけに永野氏との交流が始まり、5月15日に初めて会う機会をもうけ、当会から、是非講演会を開催したいとの要望に応えていただき、永野氏からの紹介で、柏市みどりの基金の方を含め、「手賀沼ヌマベ会議」として開催する運びになりました。

準備にあたってプロジェクトを10名で形成し、2回のリハーサル、音響の確認、会場の配置、ビデオ撮り、資料の配付、コロナ対策等を確認し当日に備えました。当日は12名のスタッフで行い、混乱なく無事終えることができました。ありがとうございました。   (文責:飯田)

基調講演の 野口修

永野真義氏

萩野正和氏  平方眞道氏
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