* 記念講演会を終えて *                     野口 修(会員)
本年8月28日、生涯学習センターアビスタホールで、我孫子の景観を育てる会の20周年記念講演会として『手賀沼ヌマベ会議 〜水辺の未来を育てる〜 』が開催され、講演の機会を頂いた。あらためて本講演会の意義は、「手賀沼の水辺を活かした新しい場所づくりを目指す3つの市民団体が、市域や世代を越えて交流し、意見交換した」ことにあったと考えている。

目に見える境界線が存在する訳でもない。市域を越えて「手賀沼の水辺を一体で考える」などということは、今更ながらの感もあるが、なかなか実現するのが難しい。現に講演者やご参加頂いた方々の間でも互いの活動について、初めて知ったというような感想も聞かれた。

もともと本講演会は、当会の20周年記念誌、第一回『我孫子景観基礎研究』報告書の発行(令和2年10月17日)に合わせて報告書の解説と当会創設以来の活動を総括する企画だった。しかしその後、東京大学大学院工学系研究科工学専攻の修士課程2年だった松本大知さん(当時)が、当会と積極的に交流して下さったことで状況は一変した。

松本さんの研究は、我孫子市の手賀沼沿いの斜面林を中心とした「崖線空間」をテーマとする。そして、この魅力的な自然環境を保全・継承するには条例等の施策を展開する行政や敷地所有者に加え、開発圧力への抵抗や環境の活用、維持管理に関する「働きかけ」を行う市民の連携が必要とされ、当会の観桜会や庭園公開、「景観あびこ」の定期発行なども、その役割を果たすと評価されている。

さらに我孫子の斜面林に興味を持った理由が、在籍されていた東京大学都市デザイン研究室が柏市の手賀沼フィッシングセンターで展開する『手賀沼ヌマベリング』が発端だと知ったことで、これまで関係して来なかった他市の、若い世代が推進する団体と、市域を越えた交流というか互いの活動を理解して協力したり、少なくとも遠慮の垣根を下げる契機になるのではないかと考え始めた。

結果、松本さんに東京大学大学院助教の永野真義さんをご紹介頂き、永野さんから北柏ふるさと公園を拠点としたプロジェクトを展開する平方眞道さん(一般財団法人柏市みどりの基金)と萩野正和さん(株式会社 connel 代表取締役)に繋いで頂き、手賀沼の東西で活動する柏市の団体と我孫子市で活動する当会の協働で記念講演会を開催することができた。
意見交換:(左)野口氏、(右)永野氏

終わってみての感想は2点。1点目は、手賀沼周辺で活動する市民団体が互いの活動内容を紹介し、交流の契機ともなる今回の様な会議を定期的に開催すべきではないかということ。2点目は、こうした市民レベルの交流機会を活発化することで、手賀沼・手賀川を所管する柏市、我孫子市、印西市に千葉県を加えた行政レベルの連携を働きかける必要もあるのではないかと考えた。

ところで最近、柏市布施地域のあけぼの山農業公園近くのプロジェクトに関わっている。まだ先が見えない話だが、あけぼの山農業公園は手賀沼西端と利根川の間に位置し、下総台地の利根川寄りの斜面林を見ることができる。JR我孫子駅や北柏駅、つくばエクスプレスの柏の葉駅から車で約15分、同じくらいの距離だ。周辺では休耕地が増えているが開発されず、長閑な田園風景が広がる。ここでも豊かな自然環境を活用した郊外住宅地の新しいライフスタイル拠点となるプロジェクトが構想される。

手賀沼の「ヌマベ」では、今も様々なプロジェクトが実施され、また構想されている。環境の保全や継承に関わる市民団体の数も多い。もしかしたら他に例を見ない事例なのかもしれないが、その証明には各プロジェクトや団体相互の情報共有と連携の意識が求められることに、あらためて気付かされた。
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