我孫子の景観を育てる会 景観あびこ_title 第111号 2022.9.17発行
編集・発行人 中塚和枝
我孫子市緑2-1-8
Tel 04-7182-7272
編集人 中塚和枝
白樺派のまちの見える化 その3  - 塩原にて -   
 吉澤 淳一(会員)
  その地を訪れた文人たちの碑は、関東屈指の塩原温泉にもあったのでこれも紹介してみる。
 塩原温泉は栃木県北部の活火山高原山と、大佐飛山地の山塊との間に挟まれた谷間を流れる箒川の渓流に沿って、次々に温泉が湧出している。古くから塩原十一湯と呼ばれ、1000年以上の歴史を持つ古い温泉郷であると案内書に記してある。

 その温泉街が文学散歩のまちであることを知って、4年前の冬に彼の地を訪ねた。
 訪れたのは2月の観光客が少ない時期であったので、文学碑が集中している「古町」「門前」「畑下」地区を、案内所「塩原ものがたり館」でもらったマップを見ながら、ゆったりと巡ることが出来た。

 この3地区にある38基すべてを見ることは叶わなかったが、大半を鑑賞できたことは幸いであった。
 主なものを紹介してみよう。
【旅館やお店の前】
・尾崎紅葉 「金色夜叉」の物語の発端が熱海であるならば、塩原は終結に向かう大事な場面である。その舞台が畑下の清琴楼という旅館で、その前に「金色夜叉」の終盤の一節の碑と紅葉の胸像があった。(下の写真)

・国木田独歩「那須停車場より車にて塩原に向かいぬ
   塩原は古町会津屋なり・・・・」

・谷崎潤一郎「七絃の滝のしらべを友として 八十路の媼
   こゑもさやけし」
・北原白秋 「渓の湯に裸の男女がつかっていて
   一面にさす青い葉漏れ日」
・与謝野鉄幹 「今日遊ぶ高き渓間の路尽きず
    山のあらはる空のあらはる」

・与謝野晶子「真夜中の塩原山の冷たさを 假にわが知る
       洞門の道」

【妙雲寺 文学の森】
・夏目漱石 「湯壺から首丈出せば野菊哉」
・尾崎紅葉 「本堂や昼寝無用の張札す」
・斎藤茂吉 「とうとうと喇叭を吹けば塩はらの
    深染の山に馬車入りにけり」

【湯っ歩の里】
 湯っ歩の里は、全長60メートルの「日本最大級の足湯」。湧き出る温泉を利用し体験型温浴施設として親しまれている。敷地内では季節ごとの花木を見つつ、回遊庭園として文学碑を鑑賞しながら散策が楽しめる。
・室生犀星 「塩原道 秋深き塩原道を わたしの自動車
    はひた走りつつ いつしか暗みゆき はや日暮となりけり(続く)」
・長塚節 「雲深き鹽はらやまの秋風に なもなき鳥の
      ひと聲なきぬ」 (鹽=塩)
・夏目漱石 「漱石日記 西那須へ下車 軽便鉄道の特等へ乗る 関谷で下車 車を雇う いい路なり蘇格蘭土(スコットランド)を思ひだす 松、山、谷、青藍の水
塩原行にて」

 こんな具合であるが、いろいろな素材で作られているのが特徴である。石碑は判読が困難な物もあってとっつきにくいものがあるが、説明プレート、作者に関するクイズプレートが添えられていて、若い人たちにも親しみやすく、コスト面も含めて大変参考になった。下の写真は夏目漱石文学碑の3点セット。
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