我孫子の景観を育てる会 景観あびこ_title 第118号 2023.11.18発行
発行人 中塚和枝
我孫子市緑2-1-8
Tel 04-7182-7272
編集人 大久保慎吾
世界の街角景観 −4−  ナイロビ(ケニア)   高 康治(会員)  
  かつてヨーロッパ人から暗黒大陸と呼ばれたアフリカだが、人類発祥の地とされるのが東アフリカ。その中心となるのが、我が日本から1万1300kmほど離れたケニア。サファリが楽しめる野生動物の王国として有名だが、実は大都会から赤道下にありながら氷河まである多様な国だ。その大都会とは、今回紹介する首都ナイロビである。筆者はサファリなどを堪能した1994年と2000年、また独立間もない南スーダンを旅した際に立ち寄った2011年の計3度にわたり、拠点のナイロビを訪れた。
写真1:ナイロビ地図
 
  本来なら暑いはずの赤道近くに位置しながら標高1795mの高地にあるナイロビは、日本の春や秋のような気候のお蔭で快適。人口は400万人を超え、ケニアの政治・経済・文化の中心地として発展してきた。また「東アフリカの表玄関」と呼ばれ、ニューヨークに本部がある国際連合の4つの主要事務所の一つ、国連ナイロビ事務局がある国際都市でもある。ほかにNGO(非政府組織)関係の本部も多い。そこで働く各国人に加え、住みついたインド系、アラブ系、中国系の人々、様々なアフリカ諸国出身の人々など人種も多彩。

  そんな東アフリカを代表する大都市だが、町の歴史は新しい。1905年に旧宗主国のイギリスが植民地の首都をインド洋に臨む蒸し暑いモンバサから内陸の涼しいナイロビに移した。この時に雑然とした小さな町を改造し、都市計画に基づき新しい町を建設した。近代的な碁盤目状の街並みは分かり易く散策には良いが、治安が問題で詳細は後述する。

  東アフリカを代表する近代的な街並みを一望するなら、町の中心部タウンにそびえ建つケニヤッタ・インターナショナル・コンファレンス・センター(KICC)が一押しだ。ハランベ・アベニュー沿いのシティ・スクエアという大きな広場に、1973年に円筒形のお椀を伏せたような形のビルが国際会議場として建てられた。36階建ての屋上の展望台に上がると、見事に整備された市街地が一望でき、この街の様子が良く分かる。因みにこのセンターのそばに、ケニアの初代大統領ジョモ・ケニヤッタの像が立つ。

写真2:シティー・スクエアを
散歩する筆者

  他に展望ポイントとしておススメできるのが、KICCから500mほど西へ行ったところにある遊園地のような広大なウフルパーク。かつては湿地帯であったなど水が豊富なところで、ナイロビの名はマサイ語の「エンカレ・ナイロビ(冷たい水の意)」から来ている。人口湖もある公園の風光明媚な展望台からは、アフリカらしからぬモダンな高層ビル群をバックにしてバッチリと記念撮影に最適だ。(下の写真3)

写真3:ナイロビの高層ビル群
    市内の見どころとして、タウンの商業街にあるシティ・マーケットはいつも活気があり面白い。 KICCから市内随一のメインストリートのケニヤッタ・アベニューを挟んで、北へ約700mにあり、まるで体育館のような建物がユニークな市場だ。食料品・花・日用品・民芸品など様々なものが揃っており、有名な観光地の一つとして知られる。特にケニアらしいお土産を買うなら絶対にここが一押しだ。(右上の写真4)
  因みに、日本のように商品に値札が付いていてレジに持って行けばいいのではなく、個別に値段交渉をしなければならない。この市場での買い物は値切って買うのが常識で、売り手と買い手双方が値段をすり合わせながら合意する金額まで交渉し続ける。場合によっては、定価の10分の1くらいの値段から交渉に入っても良いくらいと言われる。

写真4:シティー・マーケット

 買い物客で雑踏するマーケットの対面には、1933年築の壮麗なイスラム教寺院、ジャミア・モスクがある。ナイロビ一帯に住むアフリカ・アラブ・アジア系のイスラムコミュニティの支援を受けて設立されたとの由。ナイロビ最大のモスクは、銀色にきらめくドームと幾何学的なミナレット(尖塔)が美しく写真撮影に絶好。(下の写真5)

  因みにケニアではキリスト教徒が80%を占めるが、次に続くのが11%のムスリム(イスラム教徒)で意外に多い。KICCから500mほど東にあるケニア国立公文書館は、ケニアの歴史などに関する文書を多数所蔵するほか、伝統芸術から切手や武器などあらゆるものを展示しており興味深い。近代的な建物が林立するナイロビだが、郊外に出ると野生動物が棲むサバンナ(草原)が広がるのがアフリカらしい。

写真5:ジャミア・モスク

  南西8km郊外にあるボーマス・オブ・ケニアは、キク ユ・カンバ・マサイなどケニアの代表的な民族の伝統家屋を紹介する野外博物館。屋内のホールでは、主要部族による伝統的な舞踊や歌のアトラクションが見られる。さらに約7km南西にあるジラフ・センターはキリンが必見。2階建ての建物に入って2階に上がると、背の高いキリンと目線が合い観光客に近寄って来る。餌をやろうとすると、長い首を伸ばしてペロッと食べる。長い舌に直接餌を与えられるのが珍しく、近くで見るキリンの目は何とも愛くるしい。(下の写真6)

写真6:キリンと遊ぶ筆者

  約19km南郊外にあるカレン・ブリクセン博物館は、映画「愛と哀しみの果て」で有名になった原作者のデンマーク出身の女流作家の家を改装した博物館。1912年築のコロニアル風の建物が印象的。

  熱帯に位置しながら気候的には快適なナイロビの唯一の泣き所は、南アフリカのヨハネスブルグと並ぶ深刻な治安の悪さと言えよう。中心街こそ高層ビルとスーツにネクタイのビジネスマンが目に付く近代都市だが、ダウンタウンにはバラックの食堂や商店などが広がり、都市に集中する人口を受け入れるため出来上がったスラムも数多い。急激な人口増と高い失業率により犯罪が多く、日没後の市内は地元の人でも徒歩ではなくタクシーで移動するほど。

  日中でも昼の休憩時にはウィンドーに鉄格子がはめられ、二重ロックを掛ける商店が多い。冷える夜間になると、オーバーを着込んだガードマンが夜警する。幸い筆者の滞在時は被害にあわなかったが、旅行者を襲うひったくりや強盗などは珍しくないよう。そのためか日中は賑やかな街の中心でも、照明が暗い夜になると人通りがぱったり途絶える。危険な外出は控えた方が賢明なのは勿論、ホテルの中も絶対安全とは言えない。従業員やほかの宿泊客による盗難もあるようで注意が必要とか。そんな悪名高い治安問題は現在も続いていると聞く。
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