世界の街角景観 −5−  ドバイ(アラブ首長国連邦)   高 康治(会員)  
  商社マンだった現役時代、最初に海外駐在したのが中東のクウェート。1974年〜1977年の約3年半在住したが、同国自体はマーケットが小さいため、1年のうち1/3ほどは大きな商いができるアラビア湾岸諸国へ出張。最高気温が50度を超える酷暑にも屈せず行商する、いわゆる炎熱商人の端くれだった。かなり重い織物見本をスーツケースに詰め、アラブ首長国連邦(UAE)をはじめ、カタールやバーレーンなどへ売り込みに出かけた。特に頻繁に出向いたのは、UAEの一員であるドバイ。リタイア後の旅行を含めると、訪問回数は23度も。
写真1:約50年前のドバイ
クリークの畔に立つ筆者
   初めて当地を訪れたのは50年前の1974年5月。当時の人口20万人足らずが、今では240万人を超える近未来的な世界都市へ大変貌した。その昔、小さな町並みの大半はドバイ・クリークという運河沿いにあるのみで、町を出ると周りは荒涼とした砂漠。かつて漁業や真珠の輸出が盛んだったものの小さな漁村に過ぎなかったが、その後はドバイ首長が脱石油の自由貿易政策を採り中継貿易港として発展。その聞こえは良いが、実は密輸貿易の基地だった。その片棒を担いだのが筆者で、サリー用の合繊織物をドバイの密輸業者に売り込んだ。しかし日本からの輸出品は同地で荷揚後、大部分は他の周辺諸国へ向かうためクリークに停泊するダウという木造船に積み替えられ、夜陰に乗じ大消費地があるインドなどへ運ばれた。

 斯様に特異な歴史を持つドバイだが、周辺のアラブ諸国に比べイスラムの戒律も厳格でなく、飲酒・服装・娯楽・食生活に対する制約も少ない。また非イスラム教徒の外国人が人口の約8割を占め、その半数がインド人。近年は世界の主要な金融機関が進出し、中東のシンガポールと言われるほど世界有数の金融センターになった。2020年には万博が開催され、更に知名度を上げた。今様アラビアンナイトが体験できるコスモポリタンな観光都市としても注目され、魅力的な見どころが実に多い。

写真2: 新市街ジュメイラ地区の摩天楼

  先ず今も昔の名残を留めるのが、ホール・ドバイ、通称ドバイ・クリークの両岸に位置する旧市街。アラビア湾に繋がる河口に近く、北岸側はディラ地区、南岸側はバール・ドバイ地区と呼ばれる。オフィスやホテルが多いディラ地区で見逃せないのが、煌びやかな雰囲気が漂う名物のゴールド・スーク(市場)。18金が中心で、日本と違い重さで値決めされるのが特色。またクリークの岸壁には、今もダウ船が多く係留され旅情をそそる。ディラ地区から約4km南には、緑の芝生が鮮やかなドバイ・クリーク・ゴルフ場がある。運河沿いに18ホールの贅沢なコースが広がり、白いクラブハウスがシドニーのオペラハウスに少し似ており印象的。

  幅が約300mのクリークをアブラという木造の渡し舟に乗ると、オールド・スークがある対岸のバール・ドバイ地区に着く。別名テキスタイル・スークと言われるだけに、世界中から仕入れた布地を売る店が並ぶ。また同地区では町の歴史を知ることができるドバイ博物館、かつての首長家の館だったシェイク・サイード邸も見逃せない。私事で恐縮だが、2002年1月の旅行時に亡妻とクリーク沿いの遊歩道を散策したが、対岸のディラ地区に林立する高層ビル群が現代的な美しさを見せる。夜ともなれば夜風が心地良く、両地区の灯がきらめく夜景が幻想的で「中東のベニス」と讃えられるほど。
地図:景観―ドバイ地図
 
写真3:バール・ドバイ地区の
クリーク沿いを散策
  バール・ドバイ地区の南外れは昔一面の砂漠であったが、1990年代以降は急速な開発が続き、摩天楼が林立するジュメイラ地区など世界の最先端を行く新市街が広がる。その中心がクリークから約10km南に抜きん出て聳え建つ世界一高い超高層ビル、ブルジュ・ハリファ。
  160階建てで、尖塔の高さは東京スカイツリーよりも200m近く高い828m。154階には世界最高所のモスク(イスラム教寺院)がある。天空を突くようなこのビルを写真撮影するのは至難で、東隣に建つ世界最大級のショッピングモール、ドバイ・モール前のラグーン辺りからなんとかアングルに収まる。
写真4:ブルジュ・ハリファ
  
  ブルジュ・ハリファの展望台に登るためには、このモールに入ってチケットを買わなければならない。地上442mの124階展望台へ向かったが、所要時間がわずか1分の超高速エレベータ。展望台から眺めたドバイの発展振りには驚くばかりで、夕暮れが近付くにつれ市街地の夜景が黄金のように輝き始めた。

写真5:ブルジュ・アル・
アラブを背にする筆者

 このモールから2km近く西に向かうと、アラビア湾沿いのビーチに出る。南方向の海沿いを見やると先進的な形のホテルが建ち並ぶ。ひときわ目立つのが世界最高級7つ星の高層ホテル、ブルジュ・アル・アラブ。アラブタワーとも呼ばれ、アラビア湾沖に浮かぶ人工島に建つ。
  高さは321mの70階建てで、部屋数は205室だが全室がメゾネットタイプと広くて豪華。ドバイ名物の一つ、ダウ船の帆を模したデザインが、エキゾチックなドバイでもひときわ目立つ。このホテルの対面のビーチに面して建つのが、5つ星ホテルのジュメイラ・ビーチ・ホテル。598室と19の別荘から成る大型ホテルで、波形の建築が有名である。

  自由な風土と言えどもイスラムが国教だけに、市内各地に多数のモスクがある。それらの中でも見逃せないのは、ジュメイラ地区のクリーク寄りにあるジュメイラ・モスク。中世のファティーマ朝時代の様式で建てられたモスクは白い石を多用し、ドバイ随一美しいと言われる。ほかにバール・ドバイ地区にあるグランド・モスクは、灯台のような高さ70mのミナレット(尖塔)が必見。

  郊外ではエキサイティングな砂漠ツアー、デザートサファリーが一押し。4WDで東郊外アウィルの砂漠を駆け巡り、キャンプでバーベキューを楽しむツアー。午後3時スタートして最初に訪れるのがラクダの放牧場で、その後はハイライトの砂漠ドライブ。起伏の激しい砂丘をジェットコースターのように豪快に駆け抜けるが、あまりのスリリングなドライブに気弱な亡妻は悲鳴を上げ通しだった。肝を冷やすようなサファリの後、砂漠に設営したテントでディナー。食事前にラクダ乗りを楽しんだが、夜に乗るのは初体験。妖艶なベリーダンスを見ながら食べるバーベキューは格別に美味しく、幻想的なアラビアンナイトを堪能し時が経つのも忘れるほどだった。

写真6:砂漠を駆け巡る4WD
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