我孫子の景観を育てる会 景観あびこ_title 第120号 2024.3.16発行
発行人 中塚和枝
我孫子市緑2-1-8
Tel 04-7182-7272
編集人 大久保慎吾
世界の街角景観 −6−  ボストン(米国)   高 康治(会員)  
  商社マン時代に駐在こそしなかったが、現役時は出張、リタイア後は旅行にと頻繁に出かけたのが大国アメリカ。合計15度にも及んだが、2004年6月下旬〜7月下旬の1ヵ月余が最長の旅であった。広大な全米各地を回ったが、最も印象的だった街がボストン。
  同国の最大都市ニューヨークの北東350kmほどに位置するマサチューセッツ州の州都は、ハーバード大学など数多くの大学がある学園都市。人口は約69万人で全米第26位だが、その1/3超の約25万人が学生で、至る所で彼らを目にすることができる。また、英国植民地時代の歴史的建造物が今も残るニューイングランド地方(メイン州、ニューハンプシャー州、バーモント州、ロードアイランド州、コネチカット州も含む)の中心地であるボストンは、アメリカ誕生時にできた古い街の一つとして知られる。ヨーロッパ的な雰囲気が今も漂う一方、現代アメリカを支えるハイテク企業も多く集まり、新旧が交差する微妙なハーモニーを奏でる大西洋沿いの港湾都市でもある。
ボストン市内図
 
  比較的コンパクトに纏まっている街は一見歩き易そうだが、ほかの都市と違って碁盤の目状の通りでないため歩きにくい。しかし変化に富み情緒を添えるのが、街の北側を流れてマサチューセッツ湾に注ぐチャールズ川。わが我孫子に例えるなら、手賀沼のような存在であろうか。多様な顔を持つ古都の中心はこの川の南に位置するダウンタウンで、観光スポットも多い。
先ずノスタルジック且つエレガントな雰囲気が漂うのが、ダウンタウンの真ん中近くに位置し街路樹の緑が濃い住宅街ビーコン・ヒル。平地の多いボストンの中では高い丘にあり、従い坂道も多い。その坂に沿ってガス灯が立つ石畳の細い路地に、18〜19世紀に建てられたビンテージの赤レンガ造りの家並みが続く。特にエーコン通りを歩くと一瞬時が止まったような錯覚に陥る。
ビーコン・ヒルのエーコン通り

  この丘から東へ800mほどに、ボストン随一の繁華街ファニュエルホール・マーケットプレイスがある。1742年に裕福な貿易商だったピーター・ファニュエルが寄贈した集会所のホールは、アメリカ独立革命発祥の地として知られる。この付近はクインシー・マーケットとも呼ばれ、色々な店やレストランなどがひしめき合い活気がある。ここの名物は歩行者天国の道にあるベンチで、お昼時になると地元民が来て一斉に弁当を食べ始める。筆者も巻き寿司の弁当を食べたが、このような珍しい光景は初めてであった。

クインシー・マーケット

   一方、ビーコン・ヒルから500mほど南下すると、金色に輝くドームが眩しい1798年築のマサチューセッツ州会議事堂がある。すぐ傍にはダウンタウンの中心に広がるアメリカ最古の公園、ボストン・コモンがあり、公園を通り抜けて約600m西進すると繁華街のコープリー・スクエアに出る。この一帯で最も人目を引くのがトリニティ教会。1877年建立のロマネスク調の建物は優美で、一歩教会内に踏み込むと荘厳な空気が漂いステンドグラスの輝きが幻想的。そしてこの教会のすぐ東に聳え建つのが現代的なジョン・ハンコック・タワー。高さ241m、63階建ての展望台からの眺望が素晴らしく、また隣の教会のレリーフが全面青いガラス張りのビルに映り美しい。

コープリスクエアを散策する筆者
(背後はトリニティー教会やジョン・ハンコック・タワー)
  このスクエアから南西約900mには全米有数の規模を持ち、海外では最高峰と言われる日本美術のコレクションを有するボストン美術館がある。1876年に開館した建物は、天井も高く堂々として大きい。パリのルーブル、ロシアのサンクト・ペテルブルグのエルミタージュ、ニューヨークのメトロポリタンと並ぶ、世界四大美術館の一つとして有名。50万点を超える所蔵品は、地域的にはアメリカ・ヨーロッパ・アジア・エジプト、時代的には古代エジプトから現代アメリカのモダンアートまでの美術品が一堂に会した充実ぶり。特に日本人にとって興味深いのは浮世絵・仏画・絵巻物・刀剣など日本美術の傑作を多数所蔵し、かつて岡倉天心が当館に在職したなど我が国との関係が深いことだ。

ボストン美術館

 ところで筆者がこの街で最も風光明媚なエリアと思ったのがチャールズ川畔。特にビーコン・ヒル近くのロングフェロー橋付近。鉄道と 道路を組み合わせた全長538.7mの鋼製リブアーチ橋は、中央の塔の形から「ソルト・アンド・ペッパー・ブリッジ(塩胡椒橋)」とも呼ばれている。この橋辺りから、現代ボストンの高層ビル群のシルエットが眺望できる。
ロングフェロー橋からチャールズ川を望む
(背後はダウンタウン)

  この橋を渡りチャールズ川を挟んだ北側に位置するのがケンブリッジ。1636年創立のアメリカ最古の大学として8人の米国大統領を輩出しているハーバード大学や、多くのノーベル賞学者を送り出してきたマサチューセッツ工科大学がある。特に必見は、380エーカーの広大な敷地に図書館・ミュージアム・研究所など約400の校舎が点在する名門ハーバード大学。意外にこじんまりとした正門から構内に入り散策したが、建築様式はコロニアル風からモダンなものまで変化に富み、歴史的な伝統が感じ取られる。
ハーバード大学正門前に立つ筆者

  ボストン・コモンから東へ約500m、フォード・ポイント・チャネルという運河に架かるコングレス橋のたもとに、1773年に独立戦争の転機となったボストン茶会事件ゆかりの木造船が浮かぶ。その名はビーバー2世号だが、オリジナルではなく1976年に復元されたもの。
一方、街の中心から左程遠くない近郊にはアメリカ独立戦争の発端になった史跡が多い。1775年4月19日、約20km北西のレキシントンでイギリス本国軍とアメリカ植民地軍(普段は百姓の農民兵が主体)間の戦闘があり独立戦争が始まる契機となった。1分もあれば戦場に立ち奮戦したミニットマンの銅像がある。更に10km北西のコンコードは、独立戦争の舞台やアメリカ文学の故郷として有名。古戦場になったオールド・ノース橋は、コンコード川に架かる木造の太鼓橋で風情がある。また近くにあるオーチャード・ハウスという家屋博物館は、オルコット家の娘ルイーザが1868年〜69年に書いた小説『若草物語』で知られる。
コンコード川に架かるオーチャード橋

  因みに今年128回目を迎える伝統のボストンマラソンは、独立戦争の緒戦、先述のレキシントン・コンコードの戦いを記念した4月第3月曜日の「愛国者の日」に開催される。

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