旧村川別荘の庭園の特徴今野 澄玲（我孫子市教育委員会 文化・スポーツ課）
●旧村川別荘とは、親子二代にわたり西洋古代史学者であった村川堅固が建設し、堅太郎が守った別荘です。敷地内には旧我孫子宿の本陣の離れを移築した母屋と、「住食衣主義」を唱えて住まいを重視した堅固が、昭和2年に建築した新館があります。
●大正から昭和にかけての別荘地としての我孫子の様子をよく残し、我孫子市内で唯一現存する別荘建築であることから、市の指定文化財となっています。
●場所は我孫子市寿2丁目、JR我孫子駅から徒歩約20分の距離にあり、古くは平安時代に開かれたとの伝承をもつ「子之神大黒天延寿院」への参道（子之神道）に面しています。面積は約3,000�屐⊂造悗侶梗价呂鮴擇螻�いた起伏にとんだ邸内です。（下の写真）
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● 旧村川別荘の庭
（1）買った当時の様子
●まず、堅固の主義として大きな松がたくさんある土地であることが購入の要素でした。大正7年（1918年）堅太郎少年の日記には、「此の地には松が多くて大きなものが32本ある」とあり、当時、松が多く生えていた土地であることがわかります。事実、船戸にある武者小路実篤邸、東我孫子の我孫子ゴルフ場などでも松林が広がっていたことがわかっており、手賀沼のまわりには松林が広がっていました。
（2）村川家が植えた植生
●後年堅太郎が敷地内にあると良い木として、ツバキ・カエデ・モウソウチク・クスノキなどを挙げており、この様子を堅太郎は「極小の自然庭園」と称しています。
●カエデは東京の村川家から持ってきたもの。モウソウチクは堅固が買ってきたものを植えたとされ、「座敷前に2・3本植えたモウソウチクが非常な勢いで増え、その後、沼との間に郵政省の宿舎ができたが、モウソウチクのおかげで建物が見えなかった」と堅太郎は話されています。このことから、沼の眺望を大切にしていたこと、図らずも植えたモウソウチクが時を経てカーテンの役割を果たしたことがわかります。また、ツバキに関しては、村川家が植えたものではなく、そもそも自生していたツバキであることがご自慢であったようです。
●文化・スポーツ課では、邸内の建物と植生の維持のため、令和3年度から計画的に樹木の剪定を行っています。建物を維持するためには落葉を減らす必要や風通しのために樹木を伐採する必要があるため、建物と植生の維持は相反する関係で両立は難しいものです。
●堅太郎が示した植物の配置図（下段の写真）と、現在の植物の配置図を確認したところ、旧村川別荘の庭の要素として、ヤブツバキ、カエデ、モウソウチクが挙げられます。また、堅固が目白台の家を新築した際にこだわった「大きな木」。旧村川別荘の表門（北側の門）脇は、いまもケヤキが残っています。これらの植物は特に旧村川別荘にとって物語がある必要な植物であると定義しました。
●次に景観を考えます。大正から昭和初期の写真では、中央に見える建物が旧村川別荘母屋です。この写真から、斜面地には松が生えており、建物から沼までの間の斜面にはあまり木が生えていないことがわかります。また、後年建てられた新館の出窓からは手賀沼を眺めることができました。以上のことから別荘から見える景色として大切な要素は、
�〃�固が植えたモウソウチク
��敷地内から手賀沼が見えること。
これらが堅太郎からの聞き取りと、当時の写真からわかります。
●平成3年頃に撮影されたと考えられる写真（下の写真）には、母屋の座敷ギリギリまで竹が生えていたことが確認でき、驚きました。ここまでは来館者の安全や建物の維持管理を考えると難しいですが、竹が景観の保全に役立つことを改めて感じました。
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●また、旧村川別荘には大きな木の他にも草花が大切な要素となっています。草花は傾斜の土を止めるために有効であり、高い木があると育ちづらくなってしまうため、もとの状態を維持するために、定期的な剪定の必要性も再認識しました。以上のことから、定期的な高木の伐採を行い、太陽光を取り入れ、土留めのためにも草花を増やし、風通しを良くすることで建物の維持を図る必要があると感じました。
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| 堅太郎が示した植物の配置図 |
