創刊 2002.3.29
発行人 中塚和枝
我孫子市緑2-1-8
Tel 04-7182-7272
編集人 大久保慎吾
| 我孫子の景観を育てる会 | 創刊 2002.3.29 |
第126号 2025.7.19発行 発行人 中塚和枝 我孫子市緑2-1-8 Tel 04-7182-7272 編集人 大久保慎吾 |
 我孫子景観基礎研究 3 その1 身近なデザインの潮流と都市景観のつながり-4建築家・工学博士 野口 修（会員） |
||||||||||||
| 4-１．杉並区／荻外荘復原・整備プロジェクト 荻窪にある政治家、近衛文麿（このえふみまろ／1891〜1945）の旧宅、通称、荻外荘(てきがいそう)を復原・整備した公園プロジェクトを訪ねた。 炎天下の中での訪問だったが、住宅地の一角に現れた荻外荘は周囲と馴染みながらも、よく見ると際立って美しい建築だった。おそらく敷地を囲んだ塀を取って、シースルーのフェンスにしたのだろう、坂を下って公園側から見た景観には感心した。
このプロジェクトは杉並区が約10年の時間をかけて進めてきたもので、昨年12月から一般観覧公開されている。荻外荘は、昭和2年(1927)に建築家の伊東忠太が、義理の兄である入澤達吉の別荘として設計した住宅で、土地と建物は、昭和12年(1937)に近衛文麿に譲渡されている。その後、文麿が首相となったことで、日本が第二次世界大戦に至る過程の重要な政治会談の舞台となった。 例えば、昭和15年（1940）、第二次近衛内閣の組閣直前に行われた「荻窪会談」は、近衞と外相・陸相・海相に就任予定の松岡洋右・東條英機・吉田善吾が集まり、ドイツ・イタリアとの連携強化や南方進出などを話し合ったとされる。また、第三次内閣時の昭和16年（1941）には、日米開戦のほぼ２か月前という緊迫した状況下で東條陸相・及川海相・豊田外相・鈴木企画院総裁を集めて所謂「荻外荘会談」が行われた。この会談では、主にアメリカ、イギリスと戦争すべきか否かが話し合われ、近衞は陸軍の中国撤兵などを東條に打診するが拒否され、日米交渉の糸口が見えぬまま内閣総辞職にいたった。終戦後の昭和20年（1945）、近衛文麿は荻外荘で自殺している。 建物の約半分は、昭和36年（1961）に移築され、荻窪に残された部分は平成24年（2012）頃まで近衛家が所有し、改修が進んでいたところを平成26年（2014）に杉並区が土地を購入。都内に移築されていた建物の半分も買い取って、令和4年（2022）から２年半の復元整備工事を経て、昨年の公開にこぎ着けたということだ。 さらに荻外荘は平成28年（2016）、国の史跡にも指定され、区のHPを見ると、今夏新たに「展示棟」が完成予定らしい。 4-2．杉並区の「地域の価値を創出する」センス 行程としては、まずJR荻窪駅で下車して西口に向かった。駅ビルやロータリーがある北口とは線路の反対側になる西口や南口は、２車線道路を挟んだ線路際まで中小の雑居ビルが迫る。ただし、雑居ビルより先の南側地域は閑静な住宅地で緑も多い。西口の駅前停留所で、注目していたグリーンスローモビリティに乗り込んだ。
●右上へ |
この移動サービスは「小さな交通から生まれるゆっくりという新たな移動価値の創出」を目指し、令和6年11月に杉並区が本格運行させたもので、時速20�厂に�で公道を走る電動車が荻窪駅南側地域を周回する。周回コース上には�＿�外荘公園に加えて��大田黒公園も含まれ、どちらかの停留所で降りれば、�３兩邯�園にも徒歩で行くことができる。�＿�外荘公園と同様に��大田黒公園、�３兩邯�園とも、杉並区が整備した邸宅付きの庭園である。 ��大田黒公園は、音楽評論家・大田黒元雄（おおたぐろもとお／1893?1979）の屋敷跡を整備した回遊式の日本庭園で1981年に開園した。園内には樹齢百年以上のイチョウ並木やモミジなどが生息している。また、大田黒氏が仕事部屋として建てた西洋風建築も「記念館」として残されており、氏が愛用していたスタインウェイ社の1900年製造のピアノなどが展示されて、2016年に国の登録有形文化財（建造物）となっている。
次に�３兩邯�園は、角川書店創業者で俳人だった角川源義（かどかわげんよし／1917?1975）の邸宅を寄贈された杉並区が2009年より一般公開しているもので、庭園では俳句を読むための草花が四季を通して楽しめる。また、近代数寄屋の邸宅は、建築家・加倉井昭夫による設計で「幻戯山房（げんぎさんぼう）」と呼ばれ、これも2009年に国の登録有形文化財（建造物）に登録されたということだ。 3つの公園で暮らした人物相互の関係を記した史実は発見できなかったが、筆者としては、これだけの史跡が徒歩５分圏内にまとまって残っている状況を大切にしながら、公費をかけて丁寧に手を入れ、一般公開している杉並区の「地域の価値を創出する」センスに感心した。
同時に、グリーンスローモビリティの運行により 3つの史跡を繋ぎ、地域全体を立体的に浮び上がらせる手法は、手賀沼湖畔に残る「白樺派３旧邸」の運用においても参考になるのではないか？と考えた。ここでの「白樺派3旧邸」とは、大正時代の同時期に手賀沼湖畔で暮らした白樺派の文人、柳宗悦、志賀直哉、武者小路実篤の旧邸跡のことだ。 跡地については現在、個人所有であったり、史跡として市が管理していたり、法人所有であったりするが、本年６月から１１月の期間、毎月第２・第４土曜日に旧武者小路実篤邸跡地を一般公開するなど、所有者の方々のご理解とご協力を得た活動が続いている。 今回の体験記は、当初から掲載を予定していたものではない。ただ、訪ねた際の既視感が我孫子市の街並にも十分当てはまるものだったし、A.我孫子の３旧邸が「白樺派」をキーワードとして関係づけられること、B.手賀沼湖畔といった回遊に適した立地にあることに加え、C.３人の文化的人間関係や活動の広がりなどを加味すれば、もっと多様な可能性が模索できるのではないか？と考えさせられたことから、論文の主旨を度外視しても報告すべきと、刺激を受けた。 （続く） |
|||||||||||
 |
 |
|
||||||||||
| ■もどる | ||||||||||||
