八景…それは我孫子自慢、我孫子遺産のはじまり今野 澄玲（我孫子市教育委員会 文化・スポーツ課）
●瀟湘（しょうしょう）は中国の湖南省一帯の地域。洞庭湖と流入する瀟水と湘江の合流するあたりを瀟湘といい、古より風光明媚な水郷地帯として知られています。その場所は単に風光明媚というだけではなく、かつては楚の中心地として栄え、伝説や神話に彩られた土地でした。桃源郷の伝説もこの一帯から生まれたと言われると、その景色の一端を伺えます。北宋時代の高級官僚・宋迪はこの地に赴任したときにこの景色を山水図として画いたことをきっかけに、その8つの名所は瀟湘八景と称され、中国の山水画の伝統的な画題となりました。日本では、鎌倉時代に画僧によって瀟湘八景がもたらされ、慶長年間（1596年〜1615年）に瀟湘八景になぞらえて琵琶湖周辺の名所を取り上げた近江八景が成立しました。
●八景には景色と対になる事象があって、夜雨（やう）：もの寂しく降る夜の雨の風景、落雁（らくがん）：秋の雁が鍵になって干潟に舞い降りてくる風景、晩鐘（ばんしょう）：夕霧に煙る遠くの寺より届く鐘の音を聞きながら迎える夜、晴嵐（せいらん）：山里が山霞に煙って見える風景、暮雪（ぼせつ）：日暮れの河の上に舞い降る雪の風景、夕照（せきしょう）：夕焼けに染まるうら寂しい漁村の風景、秋月（しゅうげつ）：湖の上にさえ渡る秋の月、帰帆（きはん）：帆かけ舟が夕暮れどきに遠方より戻ってくる風景。となっています。
●この事象を見るだけでも、湖=手賀沼、山=高台、帆船=利根川…と、あくまで主観ですが、我孫子の風景に置き換えることが可能だと思います。そこから、我孫子の地形の豊かさを感じます。
２．布佐八景
●布佐八景のおこりは、布佐小学校の初代校長松倉潜蔵が、布佐で私塾をしていた岡山宗作と一緒に瀟湘八景か近江八景になぞらえて作った七言絶句になります。現在に無い場所は、▲橋（どばし）夜雨、千崎孤松、竜崖有照になります。▲橋(どばし)は鮮魚（なま）街道を南下した布佐と印西を結ぶ橋で、かつては土橋でした。千崎は昭和の手賀沼干拓が行われる前、沼と田んぼの境にあった松です。手賀沼から見る布佐下、浅間前の家並み、浅間神社と並ぶほど目印になる大きな松だったそうです。竜崖は、新木野の住宅地に存在した島状の独立台地に築かれた城でした。これらの名所はもう見ることができませんが、次の5つは現在も訪れることができます。
●竹岱秋月は、布佐台の台地の上にあった竹林だと考えられています。愛宕暮雪の愛宕は、その竹林の手前にあった愛宕神社です。西山暁鐘の西山は勝蔵院を指しています。鵞湖落雁はもちろん手賀沼です。刀寧帰帆の利根川は前回お話ししたとおり、流路を変えて高い堤防に囲まれましたが、今も悠々と流れています。この中で、手賀沼・利根川は存在していますが、かなりかたちが変わっています。まず、手賀沼ですが、先ほど千崎孤松で書いたとおり、昭和初期の手賀沼干拓でかなり風景が変わりました。布佐八景当時、手賀沼は布佐まで広がっていましたが、戦前の時点で布佐にはなくなり、戦後、手賀沼は我孫子地区のみとなりました。
●現在、戦後築かれた堤防にのぼると、利根川を眼下に見渡せます。この堤防から見る景色は、当時の人は見ていない景色です。私は堤防に立つと、川下の銚子へと続く船の道を見て感慨に浸れますし、川上を見ると二代目栄橋が今も現役で活躍している姿を見ることができます。往時は帆船が行き来したのだと想像します。今ある景色を前にして、失われた風景に思いを馳せる。昔と今を重ね合わせることができる場所も我孫子の自慢できる「我孫子遺産」なのではないでしょうか。
 |
| 堤防から見た利根川 |
 |
| 栄橋から見た利根川 （当会のいろいろ八景より） |
▲(ど)は
 |
…番外編 … 岡発戸・都部の谷津でホタル観賞会 7月26日（土） 藤野 誠治（会員） |
●かなり前になるが、友の宅のある上田市別所温泉へ。そこで連れ行ってもらって観た、押出川のゲンジホタルの乱舞と、いっせいにシンクロ（同期）して光を同時に点滅させる光景が忘れられない。その後もいくつかホタルを観に行った。
●昨年入会させてもらった当会で、我孫子岡発戸・谷津ミュージアムのホタル観賞をするというのを知った。この近くでホタルが楽しめるというのだ。昨年参加したが、雷雨で東我孫子駅まで行って引き返すこととなったので、今年は新柏のホタルの夕べに行った。そして満を持してこの日我孫子駅に７人が集合し、岡発戸・都部の谷津へ。
●暗くなり足元が覚束ない中、東我孫子駅から歩くこと15分、段々と目が馴れてきた頃、ヘイケホタルが舞い始めた。乱舞と聞いていたが、２年前より水が少ないせいか幽玄の世界というのか、フワ〜ッフワ〜ッと幻影的なホタルの舞いは心に沁みてくる素晴らしいものだった。
●私一人、他の団体に付いていってひんしゅくを買ったが、それはそれでいいものを見せてもらった。我孫子駅に戻って、このまま帰るのは勿体なく、近くの店でビールを飲んでその余韻を楽しんだ。来年も行くことにしようと思った。
