楚人冠と嘉納治五郎の墓に詣でて想うこと                     前田 毅(会員)
10月3日は杉村楚人冠の命日「蝉噪忌」である。楚人冠や関連する人々が私たちに遺そうとしたものは何か、「楚人冠プロジェクト」が目指すのはこの命題をしっかりと捉え、次の時代に伝えていくことである。プロジェクト活動は故人の眠る地に跪きその魂の響きを感じることから始めるべきであろう。そんな想いで有志が八柱霊園を訪れたのは「蝉噪忌」の前日、冷たい雨が降り続ける10月の初めであった。

杉村家の墓は楚人冠が昭和16年に建立、楚人冠自身と家族の霊が一緒に祀られている。墓碑は故人の生き方を示すように、質素でいながらきりっとした佇まいで、詣でる者の心も自ずから静謐に満たされる。お線香とお花をたむけ頭をたれると、今を去る80年の昔、「手賀沼干拓計画中止の陳情書」に述べられた手賀沼を守ろうとする志の高さが胸に響く。想いを引き継ぐことの重みが身を引き締める。

杉村家の墓所から少し足を運び嘉納治五郎の墓に詣でる。明治・大正・昭和の三代にわたって幅広い分野で活躍し近代日本人の精神を導き、多くの人びとの尊崇を集めた巨人はここに静かに眠る。楚人冠、村川堅固ら手賀沼保護に関わった多くの人士は、嘉納治五郎という源流から発して気高い志の山並みを形成していった。

志を引き継ぐ現代の私たちの課題は何か。楚人冠らが遺してくれた素晴らしい「手賀沼をめぐる景観」をただ遺産として受け取るだけではなく、さらに百年後の世代にもっと価値を高めて引き継いでいくことであるに違いない。

それには何をすればよいのだろうか。折しも鞆の浦の埋め立て工事に反対する住民訴訟で、広島地裁は「景観」を"国民の財産ともいうべき公益"であるとして価値を認め、これを破壊する計画を阻止する判決を出した。福岡高裁は泡瀬干潟干拓計画について"リゾート開発により貴重な自然が失われる"という住民の訴えを認め、国県市の計画に経済的合理性の観点から異議を提起し工事差し止めを命じた。
八柱霊園
杉村楚人冠と嘉納治五郎の墓(八柱霊園)にて

楚人冠らの活動は、80年を経てようやく「公」の位置を確保しつつあるかにみえる。だが、これからも人間生活の利便性確保と自然景観の保護という問題は残り続ける。21世紀に相応しい景観の概念を確立し、広く国民に浸透させることが必要だろう。

少子高齢化が進むこの国のこれからの社会で、人間の生活という利便性・公共性・社会性の確保と景観保護との調和をどう図っていくのか、私たちが解決すべき大きなテーマであり、道は未だ遥かに遠い。

「楚人冠プロジェクト」の活動は始まったばかりである。自然と人間との共生を図り、人々がこの国の形を語る時、最も大事にする価値観・徳目の一つとして「景観」を誇り得る社会を、私たちは目指したい。それが「我孫子の景観を育てる会」の使命であるとの想いを深くする。
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