第15号 2005.7.1発行
【登録文化財を活かしたまちづくり
〜第1回景観散歩 茨城県真壁町の取り組みから〜】
戸田 惣一郎(会員)

「今度お家を登録文化財にさせてください。」
突然の市文化財担当からの提案。あなたならどうしますか?
確かに古いけど、私の家なんかでいいの?住めなくなるんじゃ困るわ。お台所の改装だってしたいのに・・・。でも、ちょぴり自慢かも!

こんなご意見に対応できるのが、'96年にできた国の登録文化財の制度です。「文化財」と聞くと、どうしても「国指定重要文化財○○神社」のような指定文化財のお堅いイメージが先行してしまいますが、文化財登録制度は「活用」に重点をおいたゆるやかな制度です。

この制度の目的は、指定文化財に勝るとも劣らない文化的価値を有しながら、何の位置づけもないために解体の危機にさらされているたくさんの歴史的な住宅や社寺、橋などを守ることにあります。そこで、登録文化財は、住宅を始め様々な建造物を対象とし、緩やかな基準や規制で登録後も活用しやすいようにしています。

もちろん普通に住むことも、内部を改装してお店にすることだってできます。その代わり、費用的な支援措置はあまり多くありません。指定文化財が厳格な基準・規制と手厚い援助のもと対象を絞って保存する制度であるのに対し、登録文化財は緩い基準・規制と少ない援助のもと対象を広げて活用する制度なのです。

この登録文化財の制度を、まちづくりに活用しているのが真壁町です。茨城県の西部、つくば市の北に接する真壁町は、石材産業のまち、登録文化財のまちとして知られています。古くからまちの中心として栄えた町家村・古城村エリア、約2.8 km2に点在する登録文化財の数は100件に及び、市町村レベルでは全国No.1です。茨城県にある登録文化財総数は174件ですから、真壁町がその6割を占めることになります。町並み保存の市民団体「ディスカバーまかべ」と千葉工業大学の川東義之教授が中心となり、町民への粘り強い啓蒙活動と町への登録文化財制度推進の訴えを続けて実現しました。

現在では歴史的建造物は町の宝として認識されており、年に15件ほど文化財登録の申請が行われているわけですが、これらを観光の資源としても活用するため、まちの登録文化財を巡りながら案内する町並みボランティアや、店舗やギャラリーとして活用する取り組みもあわせて行われています。

町並み巡りの中心となるのは、歴史的な町並みの残る古城村・町家村と呼ばれたエリアです。古城村は地名のルーツともなった真壁氏の城の西側に街村状にできた集落、町家村は古城村の西側に在郷町としてできた集落です。特に、「町並み散歩」当日に私達が町並みボランティアの方と一緒に巡った町屋村エリアには、登録文化財の多くが分布し、土蔵造町家や木造町家、農家風の住宅など多様な建築様式をみることができます。

そのうち、かつての造り酒屋の米蔵を活用した布地のギャラリー「蔵布都」や、歴史ある造り酒屋の村井醸造など一部は観光客向けに公開していますが、しかし、大半は現在も一般的な住まいとして使われています。真壁では、登録文化財も日常生活の一部となっているのです。

我孫子にも、日常生活の一部となっている歴史的建造物はたくさんあります。同時に、解体の危機にさらされているものも多いでしょう。我孫子の文化的価値ある財産をいかに守っていくか。その際、真壁町の取り組みからわかるように、登録文化財制度は大変有効な手段といえます。しかし、ここで注意しなければならないのは、文化財登録が目的でなく、その先の保全・活用が目的だということです。

すなわち、登録文化財をいかに維持し、活用していくかを計画し、実践することが重要です。でないと、支援の少ない登録文化財制度ですから、せっかく登録されても相続税を所有者が負担できなくなり抹消される場合や、手入れが行き届かず荒れ果ててしまう場合があります。

登録文化財は市民の宝ですから、それを所有者のみの負担とするのではなく、しっかりとした目標像のもと市民参加型で保全・活用を実現していくシステムをハードとソフトの両面で用意する必要があります。

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