第16号 2005.10.16発行 | |
登録文化財建造物5000件突破の意義 〜まちづくりの視点から〜 戸田惣一郎(会員) | |
身近にある文化財建造物を守り、楽しむ ●景観あびこ第15号で真壁町を例に紹介した登録文化財建造物が、平成17年9月の文化審議会の答申で、ついに全国で5000件を突破したようです。それを記念する文化庁のシンポジウムが、10月6日に東京都の登録文化財第1号である安田講堂で行われました。ゲストに村川別荘ゆかりで当会でもお世話になっている村川夏子さんをはじめ、真壁町教育委員会の星龍象さん、建築史の専門家である鈴木博之東大教授や藤森照信東大教授らを迎えたシンポジウムのテーマは、「身近にある文化財建造物を守り、楽しむ」。この記念すべき日に、登録文化財制度の意義を考える上で、最適のテーマだったと思います。登録文化財のおかげで、数・種類・地域とも幅広い歴史的な建造物を把握できましたし、身近にある建物も文化財として公認されました。その結果、所有者をはじめ、行政、市民が身近な文化財を守り、楽しむ意識にもつながっています。 身近にある文化財 ●「底辺を守らないと、頂点は守れない」という考え方のもと、登録文化財制度は文化財の裾野を広げました。これによって、登録文化財制度は、文化遺産を保護する上で一番の基礎であるリストアップ、すなわち「われわれの身の回りにある文化遺産を、時代的にも、種別的にも、地域的にも幅広く、数多く把握し認識すること」に大きく貢献しています。よりミクロにみれば、村川邸や安田講堂をはじめ、個人の歴史ある民家や近代建築などより身近な建物も文化財として公に認識されつつあります。これまでの国指定重要文化財が国の歴史上重要な限られた建物をトップダウンで指定する、いわば「国の文化財」であったのに対し、登録文化財は私たちの地域や個人の身近な歴史上大切な建物などをボトムアップで登録する、いわば「My・Our文化財」。教科書にはのらない私たちの身近な歴史もまた大切な文化の一つであり、それを伝える歴史的な建物も大切な文化財であることが確認されたのです。 |
文化財建造物を守り、楽しむ ●歴史的な建物の維持には、たくさんの労力とお金を要します。これらが、登録文化財では持ち主に委ねられ、時に大きな負担となるのです。そんな時「建物に対する愛着と、登録文化財を守る身としてのほこりが、働き甲斐になる」、「どうせやるなら楽しくやりたい。楽しく踊っているうちに、数歩ずつ進んでいくのです」と村川さんは語ります。さらに、登録文化財を地域の誇りかつ財産と捉え、三樹会のように市民がボランティアでお庭の枯葉掃除に取り組み、持ち主のお助けをしたり、あるいは、真壁町のように町総出で登録文化財制度に取り組み、イベントとも絡めた町おこしにつなげたりする例もあります。身近な建物が文化財として認められるようになったおかげで、それを守り、楽しむ意識が持ち主をはじめ、市民、行政に広がっています。 我孫子で身近なところからはじめよう ●登録文化財建造物も5000件を越え、自治体間に落差がみられるようになりました。真壁町のように104件もある自治体もあれば、0件のところもあります。文化財建造物の少ないまちは、外からみればまちに形として残る文化がないことを表明しているようなものです。我孫子はどうでしょうか。今現在我孫子で暮らすものとして、私は身近で大切な物語をもった建物が我孫子にもたくさんあると思います。ですが、これは我孫子に移るまでは全く知らなかったことでもあります。せっかくある文化は大事に守っていくべきですし、さらに外へどんどんアピールしなければ損です。その意味で、登録文化財制度は、身近にある文化財建造物を守り、楽しむことができる、利用し甲斐のある制度といえます。まず身近なところからはじめてみるのはどうでしょうか。村川さんが話されたように、それぞれの建物が持っている物語を大事に集めれば、我孫子として、さらには日本としてすばらしい物語ができあがると思います |