新しく制定された「歴史まちづくり法」                     梅津 一晴(会員)
国土交通省は本法の説明会を、2008年11月25日に横浜情報文化センターで行いました。
   歴史まちづくりの歩みは、明治4年の古器旧物保存法以来、公園制度、古社寺保存法、広告物取締法、大正の旧・都市計画法、市街地建築物法、史跡名勝天然記念物保存法、昭和になり国宝保存法、戦後は野外広告物法、文化財保護法、平成では美しい国づくり政策大綱、まちづくり交付金創設、景観・緑三法と文化的景観制度があります。そして本年ようやく地域に重点を置いた「歴史まちづくり法」が制定された感があります。

国政の「歴史まちづくり」となると、どうしても知名度の高い文化財が上位にくるのは致し方ありません。法規上、文化財の種類をあげると、有形・無形文化財、民族文化財、記念物、文化的景観、伝統的建造物群、そして文化財保存技術、埋蔵文化財などがあります。記念物のなかに我孫子に多い遺跡が含まれます。
 重要な文化財は指定、登録されますが、受理後に課題が多く、申請にも多くの時間と費用が懸かり大変であると言われます。

文化庁の説明では、そんなに難しいという意識を拭い去ってほしい。各市町村は地域に於ける歴史文化を総合的に把握して「まちづくり」を、と呼びかけました。
   国土交通省による金沢市を事例とした説明は、金沢市の歴史的風致形成の背景、それを維持向上させる方法とその意義・基本方針、指定の方針と管理指針が纏められていました。

NPO法人「たいとう歴史都市研究会」副理事長で、地域プランナーの椎原晶子氏は、「台東区谷中地区の取組み方」と題した基調講演で、次のように述べています。
「歴史を生かすまちづくり」は、憲法で保障される「健康で文化的な生活」の中に伝承される「民族の文化や地域の文化」も含まれる。「文化財でない古い建物は価値が無い」と考えず、地域の歴史舞台として再発見することが大切である。地域経済を発展させる「観光業」と短絡的に直結させず、地域文化発展の「産業・生業」として再構築する必要がある。そのために「歴史的風致」と地域の地理、歴史などを調べあげて「まち」の現状と対比し、浮き上がった課題を拾い上げる必要がある。まちづくりは、行政、民間、地域ボランティア、民間資本、NPO、専門家が連携して行う事が重要であると。

我孫子はどうでしょうか。我孫子には水神山、金塚などの古墳と幾多の戦国城址、神社仏閣、一里塚、古代東海道、水戸街道などの他、文化人の足跡など眠れる豊富な遺跡・歴史遺産があります。加えて半島地形、手賀沼、利根川は、地理的特性と言えましょう。

これら歴史遺産と地理的環境の現状は如何でしょう。

1)遺跡と歴史的遺産
故日暮氏が保存に努めた根戸城址、金塚古墳、歴史時代・中近世の明神遺跡地、古社天照神社、将門の時代に遡る香取の井戸、将門の井戸そして戦国時代末期の順道塚。柴崎・青山の水戸街道上の街並集落、神社仏閣、東我孫子、中里の一里塚などがあります。また、手賀沼湖畔の柳宗悦邸跡嘉納治五郎命名の三樹荘とその古木大樹は村山祥峰氏が、武者小路実篤邸跡は企業家が山荘として、大切に保存され
ています。

   明治27年日本博覧図で我孫子の屋敷三景観に選ばれた中里の中野治四郎邸、布施の野口善左衛門邸、布佐の松島重右衛門邸のうち前二邸は現存しています。

   江戸時代新田開発に参加し、布佐の相島新田を拓いた井上家の江戸屋敷は、現当主夫妻の活動の成果で登録有形文化財の答申を受けました。
   また布佐には、網代場、馬頭観音堂、"なま街道"、町上げて伝承される竹内神社大祭があります。

2)市民による景観保全活動で蘇る名勝地
 中峠城址公園、瀧井孝作仮寓跡地の古墳公園、島久別荘跡のモミジ公園、「古利根の自然を守る会」が幾多の苦難を乗越えて開発から守りぬいた古利根は我孫子らしい静寂な空間を保っています。

3)個人のまちづくり活動
旧家の屋敷景観保全活動で景観特別賞を受けた布佐の榎本邸、庭園作りで景観住宅賞に選ばれた久寺家の森邸の斜面日本庭園、柴崎台の大原邸ガーデン、景観奨励賞寿の菅野みどりさんの世界一小さなチョウチョウ園があります。

4)企業が協力する新しい「まちづくり」
日立総合経営研修所の春秋の庭園公開と我孫子ゴルフ倶楽部13番コース開放による「市民観桜会」は、"まちおこし"に企業がいち早く参加した好例です。
   先人が刻んだ多くの文化遺産をもう一度生き返らせ、市民皆が我孫子の伝統ある文化に触れ、訪れる人々と共に喜び合いたいと思います。

都市化の波はかなりのスピードで我孫子を襲っています。時代の進展は新時代の文化を創造しますが、歴史を伝承する地元文化と上手にかみ合った構造物とするためには、受ける側が上手に選択して受け止める文化を持つ事が大切です。無防備では力とスピードを持つ巨大な現代文明で歴史ある「あびこの歴史景観」は、破壊されてしまうでしょう。「我孫子らしさ」を次の世代に引き継ぐため、「我孫子のまちづくり」の文化を皆で考えて組織的に創り上げようではありませんか。
以上

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