シリーズ「我孫子らしさ」(24)    〜光を観る、ということ〜              安河内 志乃(会員)
私の仕事は、外国のお客さまを案内する「通訳案内士」というものです。担当したツアーは「両国相撲部屋の朝稽古見学」「池袋アニメ・ラーメンツアー」「原宿ロリータファッションツアー」など。最近は、大勢を既存の観光地に案内する形は減ってきていて、むしろ個人の好みに特化した少人数ツアーが着実に増えている、と実感しています。

先日、千葉県主催の「千葉県観光リーダー養成講座」に参加してきました。基調講演をされたのは、和歌山大学経済学部准教授の大澤健氏。「今まで観光資源とはみなされなかったものがこれからの観光資源となる。『観光』は、もはやそれ自体が目的ではなく『地域おこし』の為の手段ととらえるべきである」という、思わず膝を打つような考えを披露されました。講演後、感激してメールを差し上げたのですが、氏が下さった返信の一部を、ここに紹介させていただきます。

「通訳ガイドとして、実践をすでに経験されているので、観光の変化は肌で感じておられると思いますが、こうした変化を前に、小さな事業者の可能性が大きくなっています。これは地域おこしの場合でも同じだと思います。集客力のあるイベントや施設を起爆剤にするのではなく、小さな魅力がたくさんある地域の方が、今後に期待できると思います。ぜひ、そういう地域を作っていけるように周辺の皆さんを説得していってください。千葉は大都市エリアから至近ですし、内部にもかなりの人口を持っています。小さな魅力で人を呼べる地域です」

我孫子には、その<小さな魅力>がたくさんあります。私はガイド仲間にも我孫子の話ばかりするので「安河内さんって本当に我孫子が好きなのね〜」といつもあきれたように言われていますが、それもそのはず、私が通訳ガイドになったのは、その経験が将来の我孫子の観光推進に役立つかも、と思ったから。「我孫子の観光推進」が私のライフテーマなのです。
我孫子には「観光立国」としての条件がそろっています。まず、成田からも東京からもアクセスが良いこと。坂東太郎を北に、南に手賀沼を抱き、アップダウンのある面白い地形であること。白樺派の文人や楚人冠の足跡が残り、なつかしい里山の風情の景観が保全されていること。なにより我孫子市民の景観に対する意識の高さ、です。「我孫子の景観を育てる会」は大澤氏の言われる<地域の小さな魅力>に早くから着目してきました。様々なウォーキング、「坂道」「桜」「あびバスルート」などに関するユニークなマップ作りなどの活動の底辺には<小さな魅力発見!>の志が流れていると思います。

「観光」は必ずしもダイレクトな金銭の授受を意味するものではありません。景観を整備・情報を流すことにより、訪れる人から地域にお金が落ちていく。その結果、さらに地域が景観に対し注意を払い、さらに人が来てお金が落ちる、その循環が「観光を手段としての地域おこし」です。

そもそも「観光」という言葉は、儒学の経典である『易経』の「六四、観国之光 利用賓于王」から生まれたと言われていて、「光を観る」という意味だそうです。「光」とは「美しさ、人に明るさをもたらすもの」と解釈されます。一方、「景観」は「landscape」を語源とし、「見る主体である人と、見られる対象である環境との視覚的関係」という意味だとか。「景観」とはすなわち「観られる光(美しい環境)」。

ならば、「我孫子の景観を育てる会」はその名前の中に「光を観る」という意味を包含しているのではありませんか。そして、会の創立趣旨「我孫子の景観を誇れるようにしよう」は、「我孫子の光(美しい環境)を誇る(観てもらう)」ことを意味するのではありませんか。「我孫子の景観を育てる会」はまさに「観光による地域おこし」にぴったりの団体なのです。創立10年を過ぎ、これからますます存在感が大きくなると思います。
■もどる ■「私の我孫子らしさ」シリーズの目次へ