我孫子の景観を育てる会 景観あびこ_title 第49号 2012.5.26発行
発行人 吉澤淳一
我孫子市つくし野6-3-7
編集人 飯田俊二
シリーズ「我孫子らしさ」(26)  〜声が聴こえる〜         秋田 桂子(会員)
「さあ、今日も歩こう!」と帽子を被り(髪の乱れを隠すため)、ウォーキングシューズを履いて玄関を出られる日は幸せである。体調が悪かったり風雨が激しかったりすれば諦めざるを得ないから。

まずは、我が家の庭の草花を見て「咲いてる、咲いてる。伸びてる、伸びてる」と一人ごちする。時々は夫を呼びつけ「ほら、見て!私の育てた花、かわいいでしょ」と季節の花たちを自慢して大きくもない胸を張る。本当は、花たちは光や雨や風といった自然の力に恵まれて育まれているのに。

さて、いよいよ外に出よう。その日の気分次第で方向を決めて歩き出す。「おはようございます」と出会う人たちと自然に挨拶を交わす。何故だろう?日中や夜間にすれ違う見知らぬ人たちとは挨拶を交わさないのに、朝は自然と声が出る。我孫子の朝の爽やかな気分がそうさせるのだな。

人の声、時には、イヌの鳴き声が聴こえる道すがら。 「ピピピ‥」「チチチ‥」の声に空を見上げれば、鳥たちの声が聴こえる。春先は「ホーホケキョ」と上手く鳴けない幼いウグイスもいて「ホーホ」「ケキョケキョ」と鳴いていると思わず「ホーホケキョ」と模範(?)を示してあげる。それを真似て(?)あっという間に上達するウグイスもいる。そんな時は「鳥と言葉が通じた!」と勝手に解釈して満足も覚える。

遠くからは、キジの元気な鳴き声も聴こえてくる。土手に上ると、天気がよければ筑波山が見える。杉村楚人冠の「筑波見ゆ 冬晴れの 洪いなる空に」の句に勝手に曲をつけて何回も歌う。「もう1回歌って」と言われても2度と歌わない。いや、歌えない。

目の下には中央学院大学のグランドが見える。正月の箱根駅伝を目指すランナーたちが何周も走っている。大学としては小規模ながら毎年出場し、全国に我孫子の名前を知らしめてくれている存在だ。スポーツ選手の掛け声と言えば「ファイト!」「オー!」が一般的だが、彼らは「頑張っていきましょう!」(2秒ぐらい間があってから)「はい!」と言い合っている。グランドを走った後は土手を走ってくる時もある。走りながらも「おはようございます」と私たちに挨拶をしてくれるのだ。微笑ましくて応援したくなる。
土手を降り、川沿いの道を行けば、春は激しい水音が聴こえる。コイが産卵しているのだ。その、数の多さに驚く。新しい命がここでも生まれ、育っていくのだ。

さらに田んぼでは、耕運機の音、苗を植えつける器具の音、働く人たちの短い言葉のやり取りも聴こえる。時に蛙の声も。やがて青々と育ち、秋には黄金色に実る稲を想像して、それぞれの季節の移り行く様を楽しめる場所だ。

「これ、持っていかない?」と声をかけてくれるのは、畑で野菜を育てている知人だ。「ありがとう」と応えると同時にいつもウエストポーチに入れてあるビニール袋をすばやく取り出す。収穫しながら、町内のこと・家族のことなど情報交換をする。生き生きと活動している人の声を聴くと私の心も弾んでくる。

こんな人間を含めた、生きている様々なものたちの声が聴こえる、これこそ我孫子らしさだと思う。

想像の世界の声も聴こえる!
ここで、私のとっておきの場所を紹介しよう。
そこは、竹や公孫樹や雑草などが無造作に生い茂っている所である。いつもそこで私は立ち止まる。その雑草の上に朽ちたような丸太が2本、転がっているからだ。現地を見れば「ここが?」「どうして?」と誰もが思う場所だろう。

でも、私には<のねずみのぐりぐら>とその仲間たちの姿が見え、声が聴こえるのだ。

絵本『ぐりとぐら』(なかがわりえこ作・おおむらゆりこ絵・福音館書店)を開くと、ぐりぐらが森の中で大きな卵を拾い、カステラを焼く。焼けるのを待つ間、その匂いにつられて森中の動物たちがやってくる。カメ・モグラ・カタツムリといった小さな動物から、まさかのオオカミ・クマ・ゾウ・ライオンなどの大きな動物までやって来る。そして、ふんわり焼けたカステラを丸太に座ってみんな仲良く食べる幸せなシーンがある。

だから、この場所に来るとそのシーンが浮かんできて、絵本の登場人物(動物)たちの声を聴き分けたくなるのだ。
 こんな想像の世界も楽しめるのも我孫子らしさだと私は思う。  I LOVE ABIKO!
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