(P5からのつづき)
【ストリートガーデン】

景観散歩は今も続いているロングライフの活動で、その発端はこんなことである。
  私は我孫子の文化を守る会にも加入していて、平成16年のある時、真壁の町と城址の見学に誘われた。その時は都合が悪く参加できなかったが、なんとなく引っかかるものがあって、後日、瀬戸勝さん、高橋正美さん(退会)清水昭子さん(故人)を誘って訪れてみた。城址の面影はなかったが、まちなみの素晴らしさに目を奪われた。

筑波山の北西に位置するこの町は、山系からとれる御影石が良質である事から石材の町として有名であるが、街中に登録文化財が100以上もあり、いたるところに歴史的建造物が立ち並んでいる事に驚かされた。(最近は古いひな人形を民家に飾ることでも観光客を集めている)

そんなことで、「景観散歩」が始まった。
  目的は、有名観光地ではないが、まちなみにきらりと光る何かがあって、そのまちなみ景観の維持とボランティアガイドの活動を学ぼうということである。寄り道スポットや酒蔵見学の楽しみも加味して。参加対象は、会、三樹会、旧村川別荘市民ガイドなどである。配偶者、友人なども可とした。

費用面を考えて、燃料代と高速代の負担ですむ市の福祉バスを利用することにした。そのことの制約がある。出発は午前8時30分以降、帰着は午後5時間まで、原則日帰りで走行距離は往復150キロ以内。

参加費は当初、昼食費を含めて2,500円以内としたが、最近は諸般の事情からそれを超えるケースも出てきた。こんなことでスタートしてみたが、これが好評で以降延々と続くことになる。トピックスを追ってみる。

【真壁町(現桜川市)】第1回、22回
前述のごとく登録文化財が目白押しの町なので、往路の車内で戸田惣一郎さん(元会員)が「登録文化財を活かしたまちづくり」の話をしてくれた。都市計画の専門家らしくわかりやすい説明で、これから訪れるまちの見学予習ができた。第1回・22回、ともに江戸時代から続く登録文化財の旅籠「伊勢屋」で昼食。第22回は11年ぶりの再訪であったが、まちなみは変わらぬ佇まいを見せていた。この時は帰路に雨引観音(雨引山楽法寺)を参拝した。

【栃木市】第2回、26回
蔵の街、三小江戸の一つ。まちなかを流れる巴波川(うずまがわ)の清冽さにびっくり。第1回では古刹満願寺を訪れ、第26回では大平山に足を運んだ。またデパートの上階に市役所がある事を発見した。

【大多喜町】第3回、23回
本田忠勝の城下町。第1回ではガイドさんが鎧兜で案内してくれた。商工観光課(現商業観光課)からの参加もあった。第23回では、第1回では行かなかった大多喜城を訪れた。この23回から年1回の実施になった。

【香取市(佐原)】第4回、25回
第4回の時は散策用にイヤホーンガイドを貸し出していたが、電波のキャッチがイマイチだった。文化課(現文化・スポーツ課)からの参加があった。第25回で訪れた時は、まちは観光的に洗練されていたように思えた。

【桐生市】第5回
かつて西の西陣、東の桐生と言われた絹織物の一大産地。市の遺産である織物工場のノコギリ屋根が見もの。

【深谷市】第6回
深谷駅がすごい。レンガ造りで東京駅そっくり。渋沢栄一が起こした日本で最初の機械式煉瓦工場の由来通り、街中に煉瓦造りの建物が多い。渋沢栄一が1万円札の顔になることなど夢にも思わず、所縁の地をいろいろと訪ねた。お土産の深谷ネギが大人気。

【川越市】第7回
往路でトラブル、外環道路に入ってすぐに事故の大渋滞に。見どころが多かったので、予めショートカットコースを用意しておいたのが功を奏した。川越市の職員とケータイで連絡を取りつつ、薄氷の行程だった。旅先では何が起きるかわからない。コースや訪問先の代替案を持っていると安心である。景観推進室から参加。

【古河市】第8回、24回
第8回に何故ここを選んだか、その理由を話せば長くなるがこのようなことからである。

市内に古河総合公園がある。総合公園というと運動施設や文化施設などがある場所をイメージするが、そうではない。そこは古河城があった場所で、地元の人は「公方公園」とも呼んでいる。公方とは鎌倉公方、足利成氏のことで、成氏が1455年(室町時代 康正元年)に古河に移って公方館(やかた)を築き、湿地を利用して御所沼を作った。しかし幾多の変遷を経て沼は埋められ、域は荒れ地となっていた。中村良夫教授(第96・97号参照)率いる東工大の学生たちが数年かけて御所沼を復元した。私はこのことを、かつて完全に埋め立てられようとしていた手賀沼と重ねあわせて考えざるを得なかった。「楚人冠のメッセージー愛する手賀沼のためにー」を改めてかみしめる。

ユネスコは、文化景観表彰制度として創設した「メルナ・メルクーリ国際賞」の表彰事業として2003年にここを選んでいる。古河総合公園は、文化景観づくりを高い水準で実践したモデルとして評価されたのである。
「メルナ・メルクーリ国際賞」の記念碑

景観工学の大御所、中村良夫東京工大名誉教授の著書にこの活動を記した「湿地転生の記」(岩波、会で所有)がある。現地ではパークマスターから懇切なガイドを受けた。勿論まちなみ散策も怠らなかった。

第24回はまちなみを中心に見学した。幕末の古河藩主土井利位が研究した雪の結晶は図鑑「雪華」として有名で、独特の結晶図案をまちのあちこちで見ることが出来た。

【君津市(久留里)】第9回
平成16年の事であった。新聞に、久留里城の域内に城とは関係のない団体の詩文、短歌、俳句の碑が立てられ、歴史的景観を損なうとの記事が載っていた。市民活動元気づくり事業の一環として、早速、瀬戸さん、高橋さんと現地に赴いた。天守への道を辿ると果たしてそれはあった。城址のあちこちに真新しい石碑が11基建てられていた。こんなことも引っかかって、5年後に景観散歩として訪れた。勿論碑は取り払われていた。
君津市の古民家での食事風景
名水の街と謳われていた通り、まちの至る所の井戸で清らかな水が湧いていた。この水を利用した酒蔵が5軒、お土産のきみつ豆腐が絶品だった。

【石岡市】第10回
市の郊外、八郷地区に点在する茅葺屋根の農家群がお目当てであった。筑波流という葺き方で、軒先と棟の収め方が技巧的、装飾的で家それぞれの紋様が美しかった。(下の写真)市街地は一部に昭和レトロの雰囲気が漂っていた。
大塚家の棟の「キリトビ」

【結城市】第11回
手紡ぎの絹織物、重要無形文化財「結城紬」のまちである。ガイドさんにまち歩きをメインにとお願いしていても、やはり神社仏閣が中心になってしまう。幹事さんがイライラしてしまう所以である。ほかのまちでも見受けられた。

【土浦市】第12回
初めての雨。旧制土浦中学校(現・土浦一高)時代の本館は、国の重要文化財である。明治時代の洋風建築でその美しさと格式に圧倒された。土浦城址(亀城公園)見学の後は、水郷散策と予科練記念館「雄翔館」の2班に分かれた。初の試みである。

【青梅市】第13回
移動時間のリスクから、東京の西へ向かうのはこれが初めてだったが杞憂に終わった。このまちは、古き良き時代の映画看板がまち中を飾っていて圧巻だった。年間10万の人々が訪れるという。梅の街でもある。

【横浜市(山手地区)】第14回
ここも市民活動元気づくり事業で訪れた場所である。湾岸線利用で予定通り到着。山手西洋館、外人墓地、ジェラード水屋敷など、開港時代の"横濱"に思いを馳せた。中華街でのご馳走で盛り上がった。
(■P7へつづく)
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