我孫子の景観を育てる会 景観あびこ_title 第102号 2021.3.20発行
編集・発行人 中塚和枝
我孫子市緑2-1-8
Tel 04-7182-7272
編集人 鈴木洋子
『我孫子特有の「崖線空間」に対する市民の「働きかけ」について』
東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻 都市デザイン研究室修士2年  松本大知
  読者の方々、はじめまして。東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻の修士課程2年に在籍している松本と申します。本年度、我孫子市の手賀沼沿いの斜面林を中心とした「崖線空間」をテーマに修士研究を行い、その中で我孫子の景観を育てる会様にもご協力頂き、さらにこのような貴重な紙面を頂いたことに感謝いたします。本稿では、研究内容を紹介させて頂き、我孫子特有の自然環境や景観、そして歴史的な文脈を継承する「市民」の様相について書かせて頂きます。

 研究の題目は、『斜面林保全条例の評価及び人々の「働きかけ」を踏まえた包括的な崖線空間マネジメント−千葉県我孫子市・手賀沼北岸を対象として』です。研究の前半は、手賀沼沿い斜面林という我孫子特有の魅力的な自然環境を我孫子市が保全・継承する目的で、1999年に施行した「手賀沼沿い斜面林保全条例」が20年間でどのような実効性を発揮したかを測りました。後半は、当条例の効果もあり継承されてきた斜面林に加え、手賀沼沿いの崖線に連なる低地部の農地、斜面林、そして台地上の樹林地などを包括的に捉えた「崖線空間」という空間に対して、その魅力的な環境を継承するために、市民や企業による開発圧力への抵抗、さらに活用や維持管理といった「働きかけ」を行う実態について明らかにしました(下図1)。

 前半で明らかになったのは、既存条例は敷地所有者に対して相続など所有権移転時に買取申出が可能な枠組みが一部設けられるなど、土地の確保には一定の有効性を持っている一方で、条例制定時に保全すべきと想定された面積のうち実際に条例による指定が行われているのは15%にも満たないことが分かりました。しかし、我孫子の斜面林は条例制定以降、15%しか保全されていないかと言えば、そうではありません。敷地所有者、さらには空間の活用や維持管理を行う市民・企業によって、条例による指定の有無に関わらず活用され、見守られ、継承されている空間が見受けられるのです。 

 研究の後半では、そうした市民や企業が個々の崖線空間に対して行う活用や維持管理の活動を「働きかけ」と定義し、当会を初めとする複数の市民団体や企業、市の公園緑地課、教育委員会文化・スポーツ課にヒアリング調査を行うことでその実態を探りました。具体的には、活動内容、行政との連携、条例との関係性、市民団体としての組織体制など様々な項目について伺い、整理しました。
  たとえば、当会が行っている旧武者小路実篤邸の公開企画に合わせた八景歩きや日立アカデミー我孫子キャンパス、我孫子ゴルフ倶楽部の庭園公開イベントなどは崖線空間に対する活用の「働きかけ」と言えます。敷地所有者に自ら「働きかける」ことで、その豊かな自然環境を保全する庭園を、地域の人々に公開する機会を長きに渡り創出し続けていることが、多くの市民にその大切さを広く伝えています。他にも景観に関する提案を行政や敷地所有者に行い、この「景観あびこ」を地域に向けて発刊し続けていることも「働きかけ」であり、崖線空間を中心とする我孫子特有の貴重な景観の保全・継承にとって重要な役割を持っていると言えるでしょう。その他にも、NPO法人手賀沼トラスト、船戸の森の会、蟷斡┘侫蹈鵐謄◆↓蠧立アカデミー、三樹会、我孫子の文化を守る会、NPO法人住み良いまちづくり研究所、旧村川別荘市民ガイド、市民の森&古利根みどりのボランティアなど、沢山の市民や企業による「働きかけ」を確認することが出来ました。それぞれの「働きかけ」について、図2(2P)のような仕組みの図を用いて整理し、分析を行いました。

  本研究を通した沢山の発見の中で、重要なものを1つ書くとすると、我孫子の崖線空間に対してそれぞれの「働きかけ」を行う手法には、それぞれの理念があり、同じやり方は無いと言える一方で、共通して意識・実践されるべきことがあるということです。各々の敷地所有者との関係性、市民団体なら組織体制やメンバーの参加の仕方など異なる状況を上手くマネジメントしながら、それぞれの趣向や興味に応じた多様な観点から崖線空間に「働きかけ」を行うことが空間の継承には重要であることが分かりました。たとえば、上述の市民団体等によって、低地の農地と斜面林を一体的に活用・維持管理を行うことにより、かつての里山的な資源循環の実践、地域に自然環境や歴史・文化的な文脈を広く伝える広報的な活動、竹林整備によって手に入れた竹を活用した竹製品の制作・竹炭づくり、それらを利用したイベント開催などの資源循環など、多種多様な「働きかけ」が複数の主体によって行われていることが我孫子のポテンシャルと言えるでしょう。このように敷地所有者だけでは維持管理や活用が困難な崖線空間に対して、多様な市民が手を入れ、見守ることで後世に継承されると言えます。
■P2へつづく
図1 我孫子における「崖線空間」と研究の構成
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