我孫子のいろいろ八景事業(3)  吉澤 淳一(会員)
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 【プロジェクトの目玉、マップづくり】

Desire(欲求:この目で見てみたい)の出番である。
  さて、この目で見てみたい、そこに行ってみたい、この二つを満足してもらうためにはどうしたらよいのか。
  なんといってもマップは欠かせない。利用者にとって使い勝手が良く、迷わずに各八景ポイントを楽しむマップはどういうものか、会員総出で知恵を絞ったものだった。

八景ごとに作ると、各八景は市内全域に散らばっているので、短時間で歩くことは困難である。例えば「ハケの道八景」は布佐から白山下まで分布しており他も同様で、テーマごとの散策は現実的ではない。

そこでエリアという概念が出てきた。全域を4つのエリアに分けて、その中にいくつかのコースを作ろうというものである。このエリアという概念が出てきたことで、その後の展開が飛躍的にはかどったのである。全会員に4つのエリアの何処かに入ってもらった。そこにリーダー・サブリーダーをおいて、コース設定・コース名考案・説明文記述・写真選定などをエリア単位で進めていく。但しマップ制作、即ちマップデザイン、写真撮影、全体レイアウトは、エリア共通作業として中塚和枝さんと鈴木洋子さん(以下鈴木さん)が担当した。パソコンソフトをフル活用した作業には景観推進室の担当者に随分お世話になったものだ。

マップの使い勝手の良さを求める検討には相当な時間を割いた。散策時に携行するのにはどういう大きさや形状がいいのかが議論の焦点であった。いろいろなマップを持ち寄って「ああでもないこうでもない」と。結局A4判を4つ折りにした案に決まった。広げるとマップが出てくる優れものであるが、マップ作りのお二人はかなり苦労されたと思う。

そして全体の整合性や調整を図る機関として景観推進室を交えたリーダー会議を設けて、各エリアの主要メンバーが一堂に会した。期間中に、リーダー会議は4年間に37回も開いた。エリアの概念を全面に出して進めたことで、会員の参画度合いが飛躍的に増していったことは言うまでもない。

マップはエリアごとに3コースずつ作った。全会員の叡智と情熱がここに集中した。どのコースもJR常磐線・成田線の駅to駅であることが自慢である。コースのタイトルが長いのも特徴である。見慣れない、歩き慣れない、そういう所を歩くのだから分かり易くしようと、議論を重ねてそうなった。各コースともに実に分かり易いタイトルが出来上がった。一番長いのは「マンションストリートから森を抜けるつくし野コース」で24文字もあるが、表紙のデザインと併せてバラエティのある散策が期待出来るタイトルになっている。

4エリア以外には、「成田線車窓八景」「水八景」「桜八景」がある。こちらはエリアを定めないで、市全域のマップになった。「成田線車窓八景」の写真撮影には鈴木さんが苦労していた。何しろ大げさに言うと、カメラを構えていてもアッ!という間に対象の景観が視界から消えてしまうのだ。"連写"の機能がこんなに役立ったことはなかった、と彼女の後日談である。

平成24年から6年かけた「八景探し」からその発表までの長い道程の結晶が、平成27年11月に「布佐・新木三大緑地公園コース」が誕生して、同30年9月の「成田線車窓八景マップ」に至る全15巻のマップに凝縮している。今日までの5年間で全15巻の総発行部数108,000部は行政としてはベストセラー(売り物ではないが)と言えるだろう。何人かの新聞記者さんは、プロの手になるマップだと思っていたそうで、会として鼻高々である。
5年をかけて制作した全15巻のマップ

 【いよいよ八景歩きの始まり】

最終章はAction(行動:行ってみる)である。
  マップは、それを見れば一人でも歩けるように作られていている。一人で、家族で、グループでマップを片手に散策しているシーンを見かけるし、「行ってきたよ、わかりやすくて楽しかった」なんて言葉をかけられたこともこのマップの真骨頂であろう。アビシルベの方から「マップがすぐになくなってしまう」と嬉しい悲鳴を何度聞いたことか。

一方私たちは、自分たちも率先して八景歩きの先兵になって普及に努めようと、八景歩きガイドの設立に向かって動き出した。
いよいよ「我孫子のいろいろ八景歩き」(八景歩き)ガイドの登場である。
  みんなで「まち歩き」の勉強をした。他の市民団体の歴史・文学などの散策会にもずいぶん参加したし、ものの本も読んだ。会の催事である「景観散歩」でも各地のガイドさんの活動を勉強してきた。名所旧跡、神社仏閣、歴史的建造物、偉人・文化人などなど皆さん工夫して案内していてどれも素晴らしい。

しかし、これから私たちが取り組もうとする「八景歩き」は、"景観"を案内してまわるという前代未聞のガイドである。市民の皆さんが選んでくれた景観の素晴らしさを、街角や里道、高台や水辺に立って参加者に語り掛けていく。それは路傍の何気ない里の風物であったり、まちの日常に溶け込んだ、ともすると見過ごしてしまうような眺めであったりする。それらに参考書や文献があるわけではない。あるのは八景を選んでくれた応募者と私たちの景観に対する思いである。

実際にどのようにして「八景歩き」ツアーを組み立てていったらよいのか悩んでいた時に、救世主ともいえる著書が現れた。著者は茶谷幸治さんという方で"イベントとツーリズムのプロデューサー"であり、"コミュニティ・ツーリズムの提唱者"で他にもたくさんの肩書を持つ。広告会社電通において数多くの博覧会のプロデュースをてがけた方でもある「ふれあい塾あびこ」の塾長でもあった足助さんが「面白い人物がいる。このプロジェクトの参考になりそうな本を書いている」と教えてくれたのだった。それが平成27年の春だったように思う。早速著書の一つ「まち歩きをしかける コミュニティ・ツーリズムの手ほどき」(下の写真)を読んだ。


"目から鱗"とはこのことで一気に読んだ。何度も読んだ。まち歩きの本質に触れた思いで、そこには私たちがこれからやろうとしていることの道標が満載だった。当に羅針盤であった。その年の暮れに「ふれあい塾あびこ」が実施した茶谷さんの講演会「まち歩きが観光を変える」(著書に「まち歩きが観光を変える」がある)を聴講したのは言うまでもなく、「ふれあい塾あびこ」と足助さんには感謝でいっぱいである。因みにこの会はNPO法人で、現在は当会会員の秋田桂子さんが理事長であり塾長として活躍している。

さて話を戻して、この本から数々の知識と教訓を得て、「八景歩き」の仕組みとその核となるガイドの設立を見ることになったのである。全体作業ステップ、時系列工程表、まち歩き作業ステップ、ガイドの設立、ガイドの要領等々のマニュアル作りが進んだことは言うまでもない。こうして八景歩きのガイドとサポート体制が出来上がり、今でも多くのメンバーが活躍していることは周知のごとくである。「八景歩き」は市の春秋の恒例行事として定着し、市内外のいろいろなグループからのガイド依頼も多い。マスコミにも大きく取り上げられ、千葉テレビやJCOM-TVの番組にも登場した。(下の写真)千葉県都市整備局の街歩き事業での来訪や、浦安市(うらやす景観まちづくりフォーラム)から大型バスで視察に来ていただいたこともあった。

こうして、会員の皆さんの研鑽と実行力で、「八景歩き」は今なお現在進行形で発展の道を歩んでいる。
岡発戸市民の森で千葉テレビの番組収録ロケ
写真提供は、我孫子の魅力発信室

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