我孫子の景観を育てる会 第25号 2008.1.19発行
シリーズ「我孫子らしさ」(2) 「我孫子らしさ」の紙上討論                富樫 道廣(会員)
前号の「景観あびこ」で高野瀬さんの「我孫子らしさとはどんなこと」という稿が載せられた。その後ご本人から再三にわたってその批評をもらいたいという催促をいただいた。だが言い訳をしながら時間もたってしまった。しかしこのような問題を会の仲間と議論してみたいと思っていたこともうそではない。

そこでこの機会をいただいて紙上討論の輪を拡げてみたいと、一石を投ずる思いで投稿を試みることにした。
高野瀬さんの論旨は、「手賀沼文化拠点整備計画」を読んで、その中に出てくる「我孫子らしさ」が具体的に何を指すものかを究明したいことと、「〜らしい」という概念の組み立て過程を明確にしたいことの二つと理解した。

ここで「〜らしい」と「我孫子らしい」の二点について私の意見を述べることにする。
  はじめに「〜らしい」の概念づくりの組み立てについてであるが、何かの目標の策定にこの種の標題を見かけることが多い。しかし今日のわが国では事象の不安定なものへの適用はもはや無意味とさえ思われる。名詞に「らしい」という助詞をつけて「ふさわしい」という希望的な、憧れにも似たイメージ造りが目的で使われてきた。しかし早い話が、「男らしい」、「女らしい」というには男女共同参画や雇用機会均等などのもとに消滅してしまった。今や男のような女の活躍を世を挙げて支援する時代。子供を保育園に預けて職場に駆け込む時代である。

学校を選ぶにしても「ああ玉杯に花うけて・・」や、「紅萌ゆる・・・」の「らしさ」はついぞない。一高や三高は優秀な学生が集まることは分かっていても、ボートに乗りたくて三高を選んだものも多かった。三高のボートの合宿は琵琶湖。その部歌は「琵琶湖周航の歌」になって今尚語り継がれている。

山に登りたいものは山形高や松本高に来た。山形には蔵王があり、樹氷や高山植物の宝庫。松本は日本アルプスの玄関口。その校門から望むアルプスは他では見られないヒマラヤ杉の大木の並木が並んでいる。

それぞれの学校には何人も動かすことの出来ない「らしさ」があって長い歴史によって引継ぎ守られてきたのである。
それが破壊されたのはここ50年に及ぶ「平等、公平、効率」の徹底した政策の結果と判断する。平等と公平の旗印のもとに、歴史も風土も無視されて都市計画、建築基準などが推進されてきた。

教育の現場も偏差値と共通試験のもとに学校は平準化された教育工場になって品質管理を推進した結果、規格外の商品はみなゴミにされてしまったのである。市町村合併は、効率の大義名分のもと「らしさ」を捨て、外聞もなく賛成多数で容易に達成されてしまった。これに加えて都市再生の大号令でまちは毎日変貌する。都会に育った子供たちに原風景のイメージは全くない。そんな子供たちに愛郷心や愛国心を求めることなど全く酷な話であろう。
いまや「らしさ」はネガテイヴには存在しても、ポジテイヴなものを求めるのは困難である。今から新たに差別化を訴求して求めるならその生い立ちや風土に焦点を当てるのが妥当と思う。

次に「我孫子らしさ」を考えてみると、先に述べてように地域風土にその的を絞ってみるのが早道だろう。
我孫子には3万年も前から人間が住んでいる。その地形は東西に伸びる12キロ、南北に6キロを底辺にした三角形の標高20メートルの台地になっている。その唯一無二の特性は「面水背山」の典型を形作る。これを筆者の独善的な説明を加えるなら、北に山(玄武)=斜面林、東に河川(青竜)=利根川、南に海(朱雀)=手賀沼、西に街道(白虎)=水戸街道。これ正に東洋の思想による都市構図である「四神相応」の風水の様を呈している。その上周囲はハケの道が包囲する。天の神の創造物であろう。

手賀沼はかつて日本屈指の雁の越冬地でもあった。
沼全体がコモンズで、ここに生活の糧を求めて人が集まったことは容易に理解できる。斜面林を構成する照葉樹林帯の土壌は湿地で自然薯や葛などの根菜類の宝庫でもあった。この人間生活の適地である「土」に、人の交流が「風」となってこの我孫子の「風土」を形成したと考えるのが穏当であろう。

このような文脈からすれば、「我孫子らしさ」を構成するものは、第一に手賀沼と利根川の水(含古利根)、第二に台地をとりまく斜面林、第三に水際を走る人の交流の場になったハケの道ということになる。これすべてが自然の風景であり、これらの風景はすべて自然の生態系によって造られ維持されてきたものである。最後にやってきた人間がこれを破壊しながら様々な構築物を作ってきたわけであるが、それらを含む「らしさ」を定着させるのは容易なことではない。それを景観とするのならその寿命はいかにも短い。景観は人の造るもの。

風景は自然のすべての生態系の産物。風土は天の神様の創造物である。だから進士博士に逆らうようだが「景観5年、風景百年、風土千年」と申し上げる。

市民観桜会のお知らせ
我孫子ゴルフ倶楽部で毎年開催される市民観桜会は、2008年は3月31日(月)に決定されました。
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