吉澤 淳一（会員） 【講話と芋煮会】
●この活動の楽しみは、【喜び】の項で種々述べたが、他にも先生の講話と芋煮会の事が忘れられない。
●講話は、発足の平成17年から19年にかけて、毎年夏に3回開いてくださった。第1回目はあびこ市民プラザで、演題は「三樹荘の今昔」。(下の写真)
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| あびこ市民プラザでの講演「三樹荘の今昔」 |
●第2回は場所をアビスタ ホールに移して、演題は、"万葉集「アラカルト」と、東をみな（おんな）の愛の歌・六首"。日本の古典として、言葉の原点でもある、世界に誇る万葉集の世界を紐解いてくださり、東北の美女たちの愛の賛歌を、その心根まで艶っぽく物語っていただいた。この時から一般の方にも呼び掛けた。
●3回目は、前回と同じくアビスタ ホールで「北総の文学と筑波山」。毎回先生に頼まれてレジュメを作成したが、正直言って難解だった。真間（今の市川）の手古奈堂に秘められた歌と悲恋の物語から話が始まり、万葉集、筑波山へと続いていく。どうも先生のお宅は筑波山北麓（真壁の近くか）にもあるらしく、そこの北限の蜜柑をいただいたことがある。庭の大小の石は筑波石だし、あすなろ亭の炉縁は筑波山近くの小田城にあった樹齢７００年のケヤキから造られたという。
●筑波山に絡んだ話では、▼歌（かがい・▼は女へんに躍のつくり）という風習が興味深かった。古代の日本に歌垣（うたがき）という風習があり、東北地方ではそれは▼歌と呼ばれていた。
●特定の日時に若い男女が集まり、相互に求愛の歌謡を掛け合う呪的信仰に立つ風習で、筑波山の▼歌は良く知られていたそうだ。海音寺潮五郎だったか司馬遼太郎の「平将門」の一節にこの風習の事が書かれていて、それが私の記憶に残っていたのだ。先生のご高齢化と共に講話の催しは終わった。
●もう一つの楽しみは芋煮会である。薫風の吹く頃またはもみじの下で、村山家が芋煮会で私たちを慰労してくださった。庭内に大釜を据えて、皆でふうふう言いながらお椀の芋煮に舌鼓。勿論アルコールも。平成26年に先生がお亡くなりになる2〜3年前まで続いていたように思う。
【三樹の危機】
●平成21年頃、3本のスダジイの1本、"叡智"に大きな空洞があることが市の診断でわかった。市はこの三樹を、村山家の承諾を得て景観重要樹木に指定し、国庫補助事業で空洞のできた"叡智"を治療することにした。空洞の消毒と薬の充填、毒性きのこの除去、根の周囲の土壌改良を行った。診断・治療は樹木医の高野先生（株式会社光風ガーデン）が行った。
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| 三樹荘で樹木の治療の説明を聞く |
【会員】
●スタートは発足の項で述べた通りだが、2年後の平成19年の記録では31人になっていた。女性14人、男性17人。会からは男性6人、女性1人が参加していた。緩やかな会であることは記述の通りで、このメンバーを会の方に勧誘することは敢えてしなかった。それでも数人の方が会の方にも来ていただいて嬉しかった。
●景観あびこでは、「三樹会だより」シリーズと共に「会員からの一言」シリーズがあった。皆さんの活動に込める当時の思いが良く伝わってくる。また、瀧澤さん（元会員）が折に触れて三樹荘に関わるいろいろな写真や情報をメンバーに提供してくれる。最近発行の「三樹会」雑記帳『−三樹荘あれこれ一』は、フルカラー6ページで、豆知識が満載である。
【斜面林の危機】
●平成16年頃だったか、道路を挟んだ井手口家（嘉納治五郎別荘跡）の土地が売りに出され、マンションが建つのではないかという話があった。これは大変と、平成17年に市民の声として「我孫子の文化を守る会」（会長：三谷和夫さん、現：名誉会長）、「手賀沼トラスト」（会長：日暮朝納さん 故人）、当会の三者で福嶋市長に「嘉納治五郎別荘跡地、市取得請願書」を提出した。趣旨は、�，修海浪翅校劼琉凌諭Σ吐室８渭困諒盟饑廚任△辰仁鮖謀�な場所である、�∋絢�荘と一体となった斜面林は貴重である、�２翅校劼離薀鵐疋沺璽�として景観的価値が高い、として市による取得をお願いした。
●市としても当然動いていたと思うが、平成18年に手賀沼を臨む部分を市が取得した。（北側の低地部分は分譲地として、数軒の戸建て住宅になっている。）ともかく、マンション建設の悪夢は去った。そして、平成26年に天神山緑地として見事に生まれ変わったのである。そんなこともあったなぁと、書いている途中で思い出していたら、先日嘉納治五郎の銅像が完成したと、「我孫子の文化を守る会」の美崎会長から電話をいただいた。会の皆さんも浄財を出してくれた。
【今も続く三樹会】
●先生は平成26年7月に鬼籍に入られた。享年百一（景観あびこ63号に冨樫さんの追想録）。その2〜3年前あたりからは、あすなろ亭での先生との歓談は難しくなり、時々応接間でお会いすることになったが、それまでは本当にお元気だった。白寿のお祝いもさせて頂いた。
●今はもう、主なき庭で5年の歳月が過ぎた。会長も瀬戸さんにお願いした。幸いにして村山家では、三樹会の存続を望んでおられた。先生のご意思を継がれたのだと思う。総勢26人の善男善女が、今日も天神坂や三樹荘庭内の清掃に勤しんでいる。
●三樹会が我孫子市の「さわやか環境づくり賞」を受賞したのは記憶に新しいところである。三樹会はいつでも門戸を開いていて、皆様の入会をお待ちしている。
●最後に、先生が景観あびこ第18号に寄稿された「三樹荘と三樹会」を紹介してこの項を終わる。
(■次ページは回顧録12)
| 先生が景観あびこ第18号に寄稿された「三樹荘と三樹会」 |
| 年間千人以上の来観者のために、何時も庭園を綺麗にして置くことは、家族だけでは至難の事でしたが、昨年三月から、三樹会と言うボランティアの団体が結成され、会長の吉澤氏を始め役・会員の努力の結果、四季を通じて、天神坂を始め巨木の繁る邸内まで、掃（はゝき）の愛の手が伸びて、来観者の人々から感謝されて居ります。樹木の生理作用に悩まされている家庭も、生活も大きな安らぎと三樹荘を維持して行く決心を固めて居ります。 三樹会の永続と、会員諸氏に智財寿の幸を与えられることを念じながら閣筆させて頂きます。平成十八年三月 村山祥峰 |
